全か無か思考
0か100かで考える
「全か無か思考」は0か100かで考える、うつ病で特徴的な認知の歪みです。
常に緊張が続き、些細な失敗で大きく落胆し、強いストレスが続きます。
もくじ
- (1)はじめに:全か無か思考
- (2)全か無か思考とは?
- (3)全か無か思考の起源
- (4)全か無か思考とメンタルヘルス
- (5)全か無か思考のメリット・デメリット
- (6)全か無か思考の対処法
- (7)まとめ
(1)はじめに:全か無か思考
心療内科・精神科の症状。今回は「全か無か思考」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
物事をシンプルに「全か無か」で考えるということ。
目標や動機づけには有利な点もありますけれども、ストレスや不安、さらには対人関係にも影響を及ぼすことがあり、慎重に考える必要があります。
今回はこの「全か無か思考」について見ていきたいと思います。
(2)全か無か思考とは?
これは「0か100かで考えるやり方」です。
<全か無か思考とは>
全か無か思考は、物事を0が100か二分的に捉えていく考え方になります。
完全を目指して、ひとつの失敗ですべて台無しと感じることがあります。
うつ病の考えのくせの一つとされています。
<全か無か思考と似た言葉>
まずは「完璧主義(完全主義)」
もう一つは「白黒思考」という言い方があります。
少し説明的になると「2項対立的な思考」とも言います。
全か無か思考の影響は、主に「完全への重圧」「一つの失敗での落胆」「自己評価への影響」「人間関係の影響」の4つです。
①完全への重圧
「完全にやらないといけない」というプレッシャーが常にかかった状態になります。
そうすると不安が強まり、人により時に強迫症状にも至ることがあります。
そして細部にこだわりすぎて疲弊したり、時間がかかりすぎることがあります。
②一つの失敗での落胆
一つ失敗すると「もう駄目だ」という感覚になってきます。
その結果、今までやってきたことも「もう駄目になった」との理由で放棄してしまうことがあります。
そして、自己否定やうつにつながるリスクがあります。
③自己評価への影響
「完全でないとダメと思う」結果、普段から自己否定をしやすくなります。
そして、特に失敗した時に強い自己否定に陥りやすくなります。
その結果、うつ病の発症や悪化のリスクが悪化します。
④人間関係の影響
相手にも完全主義を投影させることがあります。
そうすると、相手に悪い所が一つでも見つかると「全て駄目」に見えてきます。
これは結果として人間関係の悪化のリスクになることがあります。
(3)全か無か思考の起源
<全か無か思考の出てくる背景>
1つ目は「本人の性格特性」、確かに「大まかな人」「完全主義な人」は元からいます。
2つ目が「生育環境」、「完全でなければならない」と繰り返し求められると、、その影響を受けることがあります。
続いてが「社会文化的な影響」、「完全でなければ」という時代や集団などの影響が出る事があります。
4つ目が「経験と学習」、「完全でなければいけなかった」と思う経験・学習などが影響することがあります。
<全か無か思考の心理的要因>
まずは「強い心理的葛藤がある時」、そういう時は複雑なものをなるべくシンプルにしたい心理が働きます。
2つ目は「強い不安がある時」、不安を和らげるためになるべく物事がシンプルな必要があります。
3つ目が「考えのくせ(認知バイアス)」この影響で全か無か思考になりやすいことがあります。
(4)全か無か思考とメンタルヘルス
<全か無か思考が引き起こす不調>
①うつ病
特に失敗時の強い自己否定や落胆がストレスになり、うつ病の発症や悪化の背景になることがあります。
②不安障害・強迫性障害
「常に完璧でなければならない」との重圧から不安や緊張が続き、強迫観念にも結びつくことがあります。
③摂食障害
自分のボディーイメージに「全か無か思考」が強く働き、拒食や反動として過食につながります。
<全か無か思考が生じる背景としてのメンタルの不調や障害>
1つ目は「うつ病」や「不安障害」、これらの結果「考えのくせ」としての全か無か思考などが出やすくなります。
2つ目は「自閉症スペクトラム」こだわりがある種強迫的な「全か無か思考」にしばしばつながります。
3つ目は「境界性パーソナリティ障害」認知の偏りが、全か無か思考の「理想化」と「逆の発想」につながりやすいです。
ただし、特に精神疾患が背景にない場合もあります。
(5)全か無か思考のメリット・デメリット
確かに「メリットがある時も、時にはある」面があります。
<全か無か思考のメリット>
1つ目は「意思決定を決めるということがシンプルになる」こと。
2つ目は「高い目標と動機付けをしやすくなる」こと。
3つ目は「一貫性とある種の道徳心を持ちやすい」点です。
<全か無か思考が有利に働く場面>
1つ目は「緊急時」。この場合はなるべくシンプルに考えてシンプルに動く必要があり、時に有効です。
2つ目は「ハイリスクな目標達成が必要な場合」、一種「退路を断つ」動機づけのために、有利に働くことがあります。
3つ目は「道徳的・倫理的な決断を要する時」、シンプルにすることで決断しやすくなることがあります。
<全か無か思考が有利になりやすい人>
まずは「競争の激しい業界の人」等しても高い目標と動機づけが求められてきます。
あとは「道徳・倫理が大事という風に捉える人」。この場合も一種の「完全主義」が時にプラスに働きます。
続いて「重大な決定を要する時」、こういう時は「軸」を決める必要があり、全か無か思考が有効に働く場合もあります。
<ただしデメリットも大きい>
まず「強いストレスが慢性的に続いてしまう」こと。
そして「普段から自己評価が下がり、少しでも失敗すれば自己評価の急落につながってしまう」こと。
そのため「うつ病・不安障害」などのメンタル不調のリスクが非常に高くなります。
(6)全か無か思考の対処法
「視点を固定させ過ぎない」ことがポイントです。
対処法の方向は、「自分のくせを知る」「別の見方を探す」「一歩引いて視点を動かす」の3つです。
①自分のくせを知る
自分の考えのくせを知るところが対策の第1歩になります。
「何か感情が動いた」時にどう考えたか、自分の考え方を意識的に見ていきます。
そして、「全か無かのくせ」があれば、中間を取ることを意識します。
②別の見方を探す
先程の「中間を取る」では困難な時には、意識的にその見方の「根拠と逆の根拠」を見ていきます。
そしてその2つから「中間の考え」を意識的に取り入れていきます。
もう一つは、「もし自分が同じことでアドバイスを求められたらどう答えるか」想像すると、中間の考えが取りやすくなります。
③一歩引き視点を動かす
例えば、相手・他者の視点になったらどうかを見ていきます。
そして、一歩引き「より全体を見たらどうか」俯瞰するやり方もあります。
この時に状態を見ていく「マインドフルネス」の技術を使うのが有効な場合があります。
(7)まとめ
今回は、心療内科・精神科の症状「全か無か思考」について見てきました。
「全か無か思考」は、物事を「0か100か」で考える見方です。
常に重圧が掛かり、1つのの失敗で大きく落ち込むことがあります。
動機付けなどに有利な面も時にありますが、「自己評価の低下」「人間関係の悪化」「メンタル不調」など悪影響の部分が強くあります。
対処法は、まずは「自分の考えのくせを知り」「別の見方を探し」たり「一歩引いて視点を変える」。
これらを経て全か無かの「中間」を意識することが大事です。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)