コミュ障
「対人交流が苦手」の俗称
「コミュ障」は「対人交流が苦手」の俗称、自虐的ならいいですが、他者に使うのは侮辱的であり好ましくありません。
「自分が困っている」ときと「相手・周囲が困っている」ときがあり、それにより原因・対策が変わります。
前者は主に社会不安障害で不安に慣らす脱感作が有効。後者は時に発達障害等で、まずは受け入れが大事です。
もくじ
(1)はじめに:用語「コミュ障」について
精神科・メンタル分野の言葉。今回は「コミュ障」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
巷で最近、会話が苦手なこと一般に対して「コミュ障」という言葉がよく使われます。
これは一種の「自虐」で使われることもありますが、一方で、「他者を貶める言葉」として使われることも残念ながらあります。
そして、この同じ「コミュ障」という言葉でも、それが指す内容は人によって違いがあり、対策もその内容により変わってきます。
今回はこの「コミュ障」について見ていきたいと思います。
(2)「コミュ障」の意味と使い方
「コミュ障とは何ですか?」という質問があります。
端的に言えば「コミュニケーションがうまくいかないこと」。
<コミュ障とは>
コミュ障とは「コミュニケーションがうまくいかないということ」
それを「自分で(うまくいかないと)思っている」場合と、「相手や周囲から」そう思われている場合があります。
<使われる場面2つ>
この言葉が使われる場面は2つに分かれます。
まずは「自分で言う」という場合。これは一種自虐的に「いや私コミュ障だから」みたいに言う場合があります。
あと、もう一つが「他者から言われる」これは一種の悪口として「あいつコミュ障だよ」的な使い方です。
この中で「他者から言う」言い方は決して容認しにくいものと考えます。
<侮辱語としての「コミュ障」>
それはまるで陰口みたいな形で、今後につながらない形で言われることがあります。
そして直接言うとしてもある種「人格否定」として使われる事もあります。
その原因と改善策、あとそれを言う相手への「リスペクト」というところが示されない形で言われることが多い。
その場合は言われた方は改善策も見つからない状態になり、それでは侮辱以上の意味を持たないと思われます。
<参考:コミュニケーション障害(DSM-5)>
今回扱う「コミュ障」とは、意味のずれが大きいため、参考です。
①言語障害
言葉自体が苦手な状態
②語音障害
言葉の発音のところの問題
③吃音
どもってしまう状態
④社会的コミュニケーション障害
文脈などを読み取れない。ASDなどでよく併発する
<大まかな「コミュ障」の分類と対策>
一つのやり方はその原因から対策を考えるというところ。
もう一つが交流パターン(言いすぎ・言わない)から対策を考える事があります。
(3)「コミュ障」の各種原因と対策
原因は、大きく言うと2つに分けられます。
まずは「自分でコミュニケーションがうまくいかないと感じる場合」。
もう一つが「周りから見てうまくいかないと感じられる場合」。
自分で思う場合の多くは社会不安障害です。
相手がそう思う場合は異なり、発達障害(ASD/ADHD)や、一種のパーソナリティ障害の場合があります。
この原因ごとに、「原因と対策」を見ていきます。
①社会不安障害
社会不安障害は、強い対人面の不安が強く続く不調になります。
その中にコミュニケーションへの不安も含まれます。
そして「不安→緊張→失敗→回避」の悪循環に至ることもあり注意が必要です。
<社会不安障害の背景>
まずは「生まれながらの性格」確かに不安を感じやすいとか、内向的等があります。
2つ目は、自己肯定感の低さ。「自分は駄目だ」と思うと、一歩が踏み出しにくくなります。
3つ目は過去の経験。過去の会話での嫌な経験が頭の中に残ると、やはり一歩踏み出しにくくなります。
<この場合の対策>
基本的には不安はありつつ直面し、繰り返し慣らしていく「脱感作」が有効です。
軽めの場面で慣らし「小さい成功体験」を重ねるという点でも大事です。
それで過去を(消せない代わりに)上書き(リライト)していきます。
また、人により抗うつ薬SSRIが有効な場合もあります。
②ASD(自閉症スペクトラム)
ASDは社会性の障害、対人面の苦手さとこだわりが特徴の生まれながらの発達障害です。
コミュニケーション自体の困難や影響があることが多いです。
あと、一番注意なのが「こだわり」を相手に押しつけて、会話を壊すリスクです。
<この場合の対策>
まずは「自分の特性」対人面の苦手や、「こだわり」の潜在的な加害性等を受け入れること。
その上で社会性に関しては、得意な相手を真似る「モデリング」、状況からの「理論的推測」、経験からの反復学習等で徐々カバーします。
そして、こだわりは「相手を利するもの」に限定するのが大原則と思われます。
③ADHD
ADHDは不注意・多動・衝動が特徴の生まれながらの発達障害です。
つい不注意的に出る「失言」が会話を壊すことがあります。
そして、怒り等の感情や衝動にのまれて、会話を壊すことがあります。
<この場合の対策>
まず、自分の特徴と周囲への影響を受け入れていくところ。
その上で「失言」は言う前にまず一歩引いて、言うべきか言わないべきかを考える反復練習が大事です。
そして、感情・衝動へはいわゆる「アンガーマネジメント」の獲得が大事です。
そして、人によりADHD治療薬が有効な場合もあります。
④境界性パーソナリティ障害
これは持続する「感情調節困難」。
それにより、自分の状態や相手の見え方などが「全か無か」的に変動することがあります。
特に不安定な時に感情に呑まれ言い過ぎ、会話を壊すリスクは少なくありません。
<この場合の対策>
まずは自分の感情などの偏りや、それによる相手や周囲への影響を徐々にでも受け入れる事。
その上で、感情調節などの技術を徐々にでも身につけていきます。
そして、不安定時の頓服薬が有効な場合も人によってはあり得ます。
⑤自己愛性パーソナリティ障害
これは自分が特別だと思うタイプのパーソナリティ障害です。
その結果、相手にも特別扱いを求めたり、相手を下に見る場合があります。
「自分が相手より上」という感覚から、相手に要求しすぎることが出てきます。
<この場合の対策>
まず自分の偏りと相手への影響を(難しいですが)徐々にでも受け入れていくこと。
その上で可能なら、「相手の痛み」を「自分の痛み」から推測する事。
そして「自分の利益」→「自分たちの利益」への変換が、まずは取り組みやすいと思われます。
(4)「コミュ障」の交流パターンと対策
<2つの交流パターンと対策>
一つ目は「言えない」状態。もう一つは「言い過ぎてしまい」会話を壊す状態。
大まかな対策は、この「言えない」と「言い過ぎ」の中間を取ること。「アサーション」などと言われます。
「言えない場合」は「言う練習」をして言えるところに持っていきます。
そして「言い過ぎる場合」は、「我慢する練習」で言い過ぎない状態にします。
<「言えない」場合>
これは先程の例での「社会不安障害」の方が主に該当します。
「言うこと自体の不安」のほか、「相手に否定されることへの不安」等も影響します。
そして時に発達障害が「重ね着」的に合併する場合があります。
<「言えない」への対策>
原則としては不安がありつつも言って慣らす「脱感作」の反復練習です。
人により抗うつ薬SSRIが有効な場合もあります。
発達障害の「重ね着」の場合は、脱感作の他、発達の特性の理解と対策を並行することが大事です。
<「言い過ぎる」場合>
これは先ほどの中では「他者が・相手が困る」発達障害・パーソナリティ障害、その中で未自覚の方が該当することがあります。
自分ではしばしば困らないんだけども、相手がつらい思いをするというところです。
相手からの指摘は、報復を恐れるなどから、「ない」ことが実際は多いと思われます。
<「言い過ぎ>への対策>
まず「自分の特性」言い過ぎと、それによる相手への影響を受け入れていくことです。
その上で言う前に一歩引いて、言う「量と強さ」を抑えていきます。
その中で、特に大事なのが「相手を否定しない」こと。どうしても言わなければいけない時は、細心の注意を払って言うことが大事かと思われます。
(5)まとめ
今回は、精神科・メンタル分野の言葉「コミュ障」について見てきました。
「コミュ障」は交流がうまくいかないということ。自虐的に言う分はまだしも、他者への悪口として用いるのは望ましくないと考えます。
「自分でそれを感じて」言えない時の多くは、いわゆる「社会不安障害」です。
この時は不安がありつつも話していく・慣らしていく「脱感作」が有効になってきます。
相手が「コミュ障」と感じたり、言い過ぎてしまう場合は、未自覚の発達障害やパーソナリティ障害がある場合があります。
この場合は、特性や影響を受け止めつつ、「言いすぎを減らす」日々の練習が大事になってきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)