コミュ障

「対人交流が苦手」の俗称

「コミュ障」は「対人交流が苦手」の俗称、自虐的ならいいですが、他者に使うのは侮辱的であり好ましくありません。

 

「自分が困っている」ときと「相手・周囲が困っている」ときがあり、それにより原因・対策が変わります。

 

前者は主に社会不安障害で不安に慣らす脱感作が有効。後者は時に発達障害等で、まずは受け入れが大事です。

 

動画:コミュ障

もくじ

 
  1. (1)はじめに:用語「コミュ障」について
  2. (2)「コミュ障」の意味と使い方
  3. (3)「コミュ障」の各種原因と対策
  4. (4)「コミュ障」の交流パターンと対策
  5. (5)まとめ
  6.  

(1)はじめに:用語「コミュ障」について

精神科・メンタル分野の言葉。今回は「コミュ障」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

巷で最近、会話が苦手なこと一般に対して「コミュ障」という言葉がよく使われます。

これは一種の「自虐」で使われることもありますが、一方で、「他者を貶める言葉」として使われることも残念ながらあります。

そして、この同じ「コミュ障」という言葉でも、それが指す内容は人によって違いがあり、対策もその内容により変わってきます。

今回はこの「コミュ障」について見ていきたいと思います。

(2)「コミュ障」の意味と使い方

「コミュ障とは何ですか?」という質問があります。

端的に言えば「コミュニケーションがうまくいかないこと」。

<コミュ障とは>

コミュ障とは「コミュニケーションがうまくいかないということ」

それを「自分で(うまくいかないと)思っている」場合と、「相手や周囲から」そう思われている場合があります。

<使われる場面2つ>

この言葉が使われる場面は2つに分かれます。

まずは「自分で言う」という場合。これは一種自虐的に「いや私コミュ障だから」みたいに言う場合があります。

あと、もう一つが「他者から言われる」これは一種の悪口として「あいつコミュ障だよ」的な使い方です。

この中で「他者から言う」言い方は決して容認しにくいものと考えます。

<侮辱語としての「コミュ障」>

それはまるで陰口みたいな形で、今後につながらない形で言われることがあります。

そして直接言うとしてもある種「人格否定」として使われる事もあります。

その原因と改善策、あとそれを言う相手への「リスペクト」というところが示されない形で言われることが多い。

その場合は言われた方は改善策も見つからない状態になり、それでは侮辱以上の意味を持たないと思われます。

<参考:コミュニケーション障害(DSM-5)>

今回扱う「コミュ障」とは、意味のずれが大きいため、参考です。

①言語障害

言葉自体が苦手な状態

②語音障害

言葉の発音のところの問題

③吃音

どもってしまう状態

④社会的コミュニケーション障害

文脈などを読み取れない。ASDなどでよく併発する

<大まかな「コミュ障」の分類と対策>

一つのやり方はその原因から対策を考えるというところ。

もう一つが交流パターン(言いすぎ・言わない)から対策を考える事があります。

(3)「コミュ障」の各種原因と対策

原因は、大きく言うと2つに分けられます。

まずは「自分でコミュニケーションがうまくいかないと感じる場合」。

もう一つが「周りから見てうまくいかないと感じられる場合」。

自分で思う場合の多くは社会不安障害です。

相手がそう思う場合は異なり、発達障害(ASD/ADHD)や、一種のパーソナリティ障害の場合があります。

この原因ごとに、「原因と対策」を見ていきます。

①社会不安障害

社会不安障害は、強い対人面の不安が強く続く不調になります。

その中にコミュニケーションへの不安も含まれます。

そして「不安→緊張→失敗→回避」の悪循環に至ることもあり注意が必要です。

<社会不安障害の背景>

まずは「生まれながらの性格」確かに不安を感じやすいとか、内向的等があります。

2つ目は、自己肯定感の低さ。「自分は駄目だ」と思うと、一歩が踏み出しにくくなります。

3つ目は過去の経験。過去の会話での嫌な経験が頭の中に残ると、やはり一歩踏み出しにくくなります。

<この場合の対策>

基本的には不安はありつつ直面し、繰り返し慣らしていく「脱感作」が有効です。

軽めの場面で慣らし「小さい成功体験」を重ねるという点でも大事です。

それで過去を(消せない代わりに)上書き(リライト)していきます。

また、人により抗うつ薬SSRIが有効な場合もあります。

②ASD(自閉症スペクトラム)

ASDは社会性の障害、対人面の苦手さとこだわりが特徴の生まれながらの発達障害です。

コミュニケーション自体の困難や影響があることが多いです。

あと、一番注意なのが「こだわり」を相手に押しつけて、会話を壊すリスクです。

<この場合の対策>

まずは「自分の特性」対人面の苦手や、「こだわり」の潜在的な加害性等を受け入れること。

その上で社会性に関しては、得意な相手を真似る「モデリング」、状況からの「理論的推測」、経験からの反復学習等で徐々カバーします。

そして、こだわりは「相手を利するもの」に限定するのが大原則と思われます。

③ADHD

ADHDは不注意・多動・衝動が特徴の生まれながらの発達障害です。

つい不注意的に出る「失言」が会話を壊すことがあります。

そして、怒り等の感情や衝動にのまれて、会話を壊すことがあります。

<この場合の対策>

まず、自分の特徴と周囲への影響を受け入れていくところ。

その上で「失言」は言う前にまず一歩引いて、言うべきか言わないべきかを考える反復練習が大事です。

そして、感情・衝動へはいわゆる「アンガーマネジメント」の獲得が大事です。

そして、人によりADHD治療薬が有効な場合もあります。

④境界性パーソナリティ障害

これは持続する「感情調節困難」。

それにより、自分の状態や相手の見え方などが「全か無か」的に変動することがあります。

特に不安定な時に感情に呑まれ言い過ぎ、会話を壊すリスクは少なくありません。

<この場合の対策>

まずは自分の感情などの偏りや、それによる相手や周囲への影響を徐々にでも受け入れる事。

その上で、感情調節などの技術を徐々にでも身につけていきます。

そして、不安定時の頓服薬が有効な場合も人によってはあり得ます。

⑤自己愛性パーソナリティ障害

これは自分が特別だと思うタイプのパーソナリティ障害です。

その結果、相手にも特別扱いを求めたり、相手を下に見る場合があります。

「自分が相手より上」という感覚から、相手に要求しすぎることが出てきます。

<この場合の対策>

まず自分の偏りと相手への影響を(難しいですが)徐々にでも受け入れていくこと。

その上で可能なら、「相手の痛み」を「自分の痛み」から推測する事。

そして「自分の利益」→「自分たちの利益」への変換が、まずは取り組みやすいと思われます。

(4)「コミュ障」の交流パターンと対策

<2つの交流パターンと対策>

一つ目は「言えない」状態。もう一つは「言い過ぎてしまい」会話を壊す状態。

大まかな対策は、この「言えない」と「言い過ぎ」の中間を取ること。「アサーション」などと言われます。

「言えない場合」は「言う練習」をして言えるところに持っていきます。

そして「言い過ぎる場合」は、「我慢する練習」で言い過ぎない状態にします。

<「言えない」場合>

これは先程の例での「社会不安障害」の方が主に該当します。

「言うこと自体の不安」のほか、「相手に否定されることへの不安」等も影響します。

そして時に発達障害が「重ね着」的に合併する場合があります。

<「言えない」への対策>

原則としては不安がありつつも言って慣らす「脱感作」の反復練習です。

人により抗うつ薬SSRIが有効な場合もあります。

発達障害の「重ね着」の場合は、脱感作の他、発達の特性の理解と対策を並行することが大事です。

<「言い過ぎる」場合>

これは先ほどの中では「他者が・相手が困る」発達障害・パーソナリティ障害、その中で未自覚の方が該当することがあります。

自分ではしばしば困らないんだけども、相手がつらい思いをするというところです。

相手からの指摘は、報復を恐れるなどから、「ない」ことが実際は多いと思われます。

<「言い過ぎ>への対策>

まず「自分の特性」言い過ぎと、それによる相手への影響を受け入れていくことです。

その上で言う前に一歩引いて、言う「量と強さ」を抑えていきます。

その中で、特に大事なのが「相手を否定しない」こと。どうしても言わなければいけない時は、細心の注意を払って言うことが大事かと思われます。

(5)まとめ

今回は、精神科・メンタル分野の言葉「コミュ障」について見てきました。

「コミュ障」は交流がうまくいかないということ。自虐的に言う分はまだしも、他者への悪口として用いるのは望ましくないと考えます。

「自分でそれを感じて」言えない時の多くは、いわゆる「社会不安障害」です。

この時は不安がありつつも話していく・慣らしていく「脱感作」が有効になってきます。

相手が「コミュ障」と感じたり、言い過ぎてしまう場合は、未自覚の発達障害やパーソナリティ障害がある場合があります。

この場合は、特性や影響を受け止めつつ、「言いすぎを減らす」日々の練習が大事になってきます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)