未治療期間
早期治療が大事
未治療期間とは、発症から治療開始までの期間。短いほど早期治療になります。
統合失調症のほか、各種の精神疾患でその短縮が大事です。
もくじ
(1)はじめに:未治療期間
精神科・メンタル分野の言葉、今回は「未治療期間」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
よく、体の病気で「早期発見・早期治療が大事」という話があります。これはメンタル分野でも、基本的には同様と考えられます。
背景に特に統合失調症で言われます「未治療期間」の話があります。
今回は、この「未治療期間」について見ていきたいと思います。
(2)未治療期間と早期発見・早期治療
<体の病気で言われること>
早期に見つかると治療しやすいけれども、進行してしまうとなかなか治療が難しい。
「なので早期発見・早期治療が大事」ということがよく言われます。
<早期発見・早期治療ができると>
まず治療は負担の少ない治療で改善が見込めます。
そして発見が早い分完治しやすいです。
また後遺症も少ないことが多い。
そして、予後は基本的にはいいとされます。
<発見が遅れると>
その場合、負担の強い治療がしばしば必要になります。
また、完治もしにくいとされます。
病気や治療の結果の「後遺症」も大きくなります。
そして予後も悪くなることが多いとされます。
<例外の場合>
①自然に治る病気
この場合は早く見つけなくても自然に改善します。
②治療法がない病気
治療法がない場合は、早期発見しても治療や予後はあまり変わらない場合があります。
③変化を見る必要がある病気
中には「経過を見る」必要がある病気があり、この場合は早期発見が必ずしも早期治療につながりません。
こうした例外はあるものの、一般には「早期発見」が有利とされます。
<早期発見→未治療期間を短くする>
早期発見を言い換えると「未治療期間を短くする」ことです。
この「未治療期間」は、発症してから治療開始までの時間になります。
多くの場合、これが短い方が予後がいいとされます。
そして、短くするには「早期発見・早期診断」が必要です。
(3)統合失調症と未治療期間
統合失調症でも、未治療期間が大事です。
<統合失調症とは>
統合失調症は、悪化したときに幻聴や妄想などが目立つ脳の不調です。
「脳のドーパミンの作用の過剰」が言われ、それを抑える抗精神病薬などで治療します。
ここで、「未治療期間」が短い方が基本的に予後がいいとされます。
<統合失調症の未治療期間>
統合失調症の社会的予後と未治療期間が非常に相関しているとされます。
なので、早期治療で未治療期間を縮めることが望まれます。
ただし、早期発見と早期診断には一部難しさがあります。
<統合失調症で未治療期間が長引くと>
まずは幻聴や妄想などが慢性化・悪化する場合があります。
2つ目が「陰性症状」や「認知機能障害」、社会生活に影響する「後遺症」が強まります。
3つ目が強い幻聴が続くなど「長期のストレス状態」が続くこと、その「ストレス反応」の影響が指摘されます。
<統合失調症の前駆状態(ARMS)>
この「ARMS”At Risk Mental State”」は、統合失調症の前ぶれの状態です。
この段階を見つけ、正確に診断・治療できれば非常に未治療期間が短い状態で治療ができます。
そして早期介入により「発症予防」することも期待されます。
この実現のためには、いわゆる「前駆症状」を見極める必要があります。
<前駆症状の例>
基本的には統合失調症ほどは目立たない症状になります。
まずは過敏さやイライラが出てくることがあります。
あとはなぜか無気力になったり、引きこもり状態になる方がいます。
場合によっては「世界没落体験」、世界がいつもと違うように感じられる一種の「妄想知覚」が出ます。
<ARMSの課題>
まず、他の病気でもこの「前駆症状」と似た症状が出ることがあります。
そして、治療しなくても一過性で「自然治癒」する事も少なくありません。
なので、ARMSを広くとりすぎて「過剰診断・過剰治療」になるリスクは、その点は注意を要します。
<もう一つの対策:啓蒙活動>
「長すぎる未治療期間」を減らすためには啓もう活動も有効です。
統合失調症の知識を身近にして、ご自身や周りの人が早目に気付く状況を作る。
その結果、「長すぎる未治療期間」を防いでいく効果が、啓蒙活動に期待されます。
(4)他の精神疾患と未治療期間
多くの精神疾患で未治療期間の短縮は治療に有効です。
<未治療期間の長期化の影響>
まずは脳のダメージ、いわゆる「後遺症」的なものが多くの疾患で出ます。
また、認知(考え方)などへの影響が出て「慢性化」するリスクが言われます。
3つ目は、「社会的な不適応」を引き起こすリスクです。
4つ目は病気によっては「直接体への影響が強く出る」ものもあります。
<特に早期発見が有効な場合>
まずは「治療なしでは悪化してしまう場合」、見つけることで悪化を防げます。
2つ目が「影響や後遺症が未治療だと強まっていく場合」、これも気付くことで防げます。
3つ目は「強力な標準治療がある場合」、この場合、見つけることで治療と改善に直接つながります。
①躁うつ病
<未治療期間が長引くと>
躁での「浪費」などのトラブルなど、社会的影響が非常に強く出てしまいます。
そしてそこへ葛藤することで、様々な心理的なリスクが出てきます。
また、統合失調症同様、認知機能への影響も未治療が長いと出ることを臨床上経験します。
<早期治療での効果>
「気分安定薬」が標準治療です。それによって病状の安定を図っていきます。
また、浪費など社会的な影響の防止を図っていきます。
そして、認知機能障害に関しても一定の防止効果を図っていきます。
②うつ病
<未治療期間が長引くと>
まず「慢性的なうつ状態のリスク」が出てきます。
そして、労働困難・生活困難の慢性化が出てきます。
そして葛藤からの心理的なリスクが様々に生じてきます。
<早期治療での効果>
抗うつ薬などでの標準治療があり、これによって症状の改善を見込んでいきます。
そして慢性的なうつ状態の改善を見込んでいき、段階的な社会復帰を模索します。
③適応障害
<未治療期間が長引くと>
まずストレス状態が続くため、うつ病への移行リスクは非常に高いです。
また、「否定的思考」が慢性化し、「気分変調症」のような慢性化リスクがあります。
そして「労働継続困難の慢性化・反復」のおそれがあります。
<早期治療での効果>
まず可能なら「環境調整」を早目にして改善が見込める場合があります。
繰り返してしまう方でも、ストレスの対処「ストレスマネジメント」を地道に行い改善を見込みます。
これらを通じ、うつ病への移行や困難の慢性化を防いでいきます。
④不安障害
<未治療期間が長引くと>
まず「症状の悪化と慢性化」のリスクがあります。
また、自己肯定感が低下してしまうことがあります。
そして、注意が必要なのがいわゆる「ひきこもり」状態への移行です。
<早期治療での効果>
まずは抗うつ薬での不安の改善・悪化予防を見込みます。
それを土台に不安に慣らす「脱感作」で改善を図り、かつ自分で症状を管理できたという「自己肯定」につなげます。
それにより引きこもりを予防・脱却していくことを期待します。
⑤認知症
<未治療期間が長引くと>
まず中核症状はだんだん悪化してきます。
そして周辺症状・精神的な不安定等の悪化リスクが上がります。
それと連動し「介護者」周りの家族などの疲弊が懸念されます。
<早期治療での効果>
まずは介護保険の導入などで周辺症状の悪化を防ぎます、
また早期に枠組みを決めることで周辺症状の帽子を図ります。
それと同時に、介護者の疲弊も様々な角度から防いでいきます。
ただし一方で、もとの「中核症状」認知症自体の進行への治療は限定的にとどまります。
⑥発達障害(ASD・ADHD)
<未治療期間が長引くと>
まずは「社会的な不適応」、不登校や長期労働の困難などにつながります。
また「二次障害」、具体的にはうつ症状やイライラ等の慢性化のおそれがあります。
それらも絡んで「孤立」や「社会的な学習経験の困難」からの悪循環が懸念されます。
<早期治療での効果>
まず「障害の理解」と「学習環境などの介入・調整」によって適応の改善を図ります。
それらも通じ、二次障害の予防と改善を図ります。
ただし、「特性」自体はどうしても残ります。(ADHDは薬はありますが、あくまで部分的効果です)
なので「地道な」特性に対しての取り組みの継続を要します。
⑦パーソナリティ障害
<未治療期間が長引くと>
まず認知の偏りがさらに強くなり慢性化することがあります。
その結果他者を巻き込み影響を与える事が時に発生します。
そして、場合によっては、「自身へのリスク」自傷・引きこもり等のおそれが出てきます。
<早期治療での効果>
まずこの障害を知る事で、無意識での「認知の偏り」の悪循環の防止を見込みます。
また、感情制御などには、頓服薬などの活用での対策が時に有効です。
ただし、この「偏り」への特効薬はなく、地道に徐々に直面して徐々に修正することが必要です。
⑧アルコール依存症
<未治療期間が長引くと>
まずは依存が悪化してかつ慢性化することがあります。
その結果、生活や対人面など、様々な社会生活への影響が強まります。
さらに「体への強い影響」、多量飲酒による肝機能障害などの影響が出てきます。
<早期治療での効果>
まずこの障害を知ることによって、飲酒の悪循環を徐々にでも改善していきます。
そして体への影響の強さを知ることが断酒への取り組みに繋がる場合もあります。
ただしこの「断酒」に対しては、飲酒欲求を下げるなど薬なくはないとはいえ特効薬はありません。
なので、飲酒衝動などへの「地道な取り組み」がどうしても必要になります。
⑨摂食障害
<未治療期間が長引くと>
まず「拒食などが悪化してかつ慢性化する」、「ボディーイメージ」の認知の偏りなども慢性化します。
すると生活や対人面でまず大きな影響が出てきます。
そして摂食障害で一番注意が必要なのが「体への強い影響」です。
痩せ過ぎの状態が続くこと等で、体全体への影響が強く出現、重症時には命にもかかわります。
<早期治療での効果>
まず摂食障害の症状や特性を知ることによって、悪循環への抑止力になる部分はあります。
そしてうつ病等の「併存症」の悪影響がある場合は、その治療で改善が期待できる場合があります。
ただし、「食事への衝動」や「ボディーイメージ」認知の偏りには特効薬はありません。
なので、ここは徐々にでも「地道な取り組み」がどうしても必要です。
<早期発見のための啓蒙活動>
このように様々な精神疾患で早期発見・早期治療が一定の効果を持ちます。
ここで対策としての「啓蒙活動」は全般的に大事です。
早期発見の土台として、メンタル不調の知識を身近にすることが大事です。
それにより自分・周囲が早期に「気づける」ような環境を作ることが重要です。
(5)まとめ
今回は、精神科・メンタル分野の言葉「未治療期間」について見てきました。
体の病気で早期発見・早期治療が大事とされますが、これはメンタル疾患でも同様な面があります。
統合失調症で「未治療期間」の短縮が大事とが言われ、他のメンタル不調に関しても概ね同様です。
早期発見の実践のためには「啓蒙活動」が大事になります。
メンタル不調に関して、対策も含めて知識を身近にして、自分や周囲が早めに気付き、早期発見できる環境の構築を目指します。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)