マイクロアグレッション
目に見えにくい攻撃
マイクロアグレッションは一見見えにくい「細かい攻撃」です。
対策の第一歩は、それがあると「気づく」ことです。
もくじ
- (1)はじめに:マイクロアグレッション
- (2)マイクロアグレッションの例
- (3)マイクロアグレッションとは
- (4)日本でのマイクロアグレッション
- (5)マイクロアグレッションの賛否
- (6)マイクロアグレッションを「する」ことへの対策
- (7)マイクロアグレッション「される」への対策
- (8)まとめ
(1)はじめに:マイクロアグレッション
精神科・メンタル分野の言葉。今回は「マイクロアグレッション」についてみていきたいと思います。よろしくお願いします。
特に直接悪口を言われたことはないのだけれども、何か会話の後にもやもやしたものが残る。こうした経験をする方は少なくありません。
ここであるような、一見目立ちにくい否定的なメッセージの発信を「マイクロアグレッション」といいます。
今回は、この「マイクロアグレッション」についてみていきたいと思います。
(2)マイクロアグレッションの例
Aさんは、男性がほとんどの会社に入社をしました。
ある日、仕事がうまくいったとき、上司から「女性なのにしっかりしているね」と言われました。
批判されたわけでは全然ないのですが、何かもやもやしたものが残りました。
特に叱責されることはその後も全くない中、先ほどのような声かけは日々続きました。
Aさんは理由は分からない中で次第にふさぎ込むようになって、ある日会社に行けなくなりました。
(3)マイクロアグレッションとは
マイクロアグレッションは「目に見えにくい細かい攻撃的な言動」です。
<マイクロアグレッションとは>
マイクロアグレッションは、しばしば無意識に行われる「目立ちにくい攻撃的な言動」です。
これは「目立ちにくい」ためいわゆる事例性は持ちにくい。
一方で積み重なっていきますと心理的な打撃がだんだん大きくなってくることがあります。
<マイクロアグレッションの歴史>
マイクロアグレッションは、元は1970年代に「目立ちにくい人種差別の言動」の意味で初めて使われ始めました。
2000年代以降は、人種以外にも障害者などの「少数」の方への発言となるなど、意味が拡大されてきました。
その中で日本では2020年代に非常に注目され始めています。
<マイクロアグレッションの例>
(外国人風の人に)日本がお上手ですね
(新入社員に)若いのにしっかりしていますね
(障害ある人に)障害があっても前向きですね
これらの発言の裏に、「逆の先入観」が透けて見える事があります。
<言う側は無自覚のことが多い>
実際には、無自覚で軽い気持ちで発せられる場合も少なくありません。
そして、むしろ褒め言葉として言ったつもりという場合も中にはあります。
ここでの背景としては前述のような「無自覚の偏見」ある事が多いとされます。
「無自覚のステレオタイプ的な偏見」が無意識にあった上で「マイクロアグレッション」が出てきます。
<マイクロアグレッションの影響>
まずはストレスが蓄積することから、次第に「うつ」などになるリスクが出てきます。
組織の面では、信頼関係の悪化につながります。
そしてされた人がまた別の人にするなど「アグレッションの連鎖」も危惧されます。
(4)日本でのマイクロアグレッション
これは「パワハラと似た概念として」広まったところがあります。
<日本でのマイクロアグレッション>
これは最近の2020年代、特に職場の問題として注目されつつあります。
パワハラ対策が進む中、その後残る「隠れパワハラの1種」として言及されることがあります。
そして、中には男女平等やジェンダー論の文脈で、この話が出てくることもあります。
<補足:パワハラの注目と対策>
日本では主に2010年代に、会社のパワハラの啓蒙が大分広がってきました。
その結果、明確なパワハラは大分減り、かつ明確にあれば介入される傾向が出てきています。
一方その一部は「より目立ちにくい形」への移行も指摘されまして、その一つがこの「マイクロアグレッション」です。
(5)マイクロアグレッションの賛否
「どこまでをマイクロアグレッションと見なすか」に賛否両論があります。
主なマイクロアグレッションへの反対意見は「客観性を欠く」「表現の萎縮を招く」「被害者意識の強化」の3つです。
①客観性を欠く
確かにマイクロアグレッションかの基準は「受け手がどう感じるか」の部分が大きいです。
そして「パワハラ」のような客観的な根拠・証拠は、なかなかつかみにくいのが現実です。
なので一歩間違うと「過剰運用」され、何気ないこともマイクロアグレッションとみなされるリスクが指摘されます。
②表現の萎縮を招く
ここでは、無意識であっても「相手が不快感を感じれば」不適切とみなされるところがあります。
そうすると予防策は「当たりさわりない発言に絞る」ことになってきます。
そうなればもう交流が「対立を回避する表面的なもの」になるおそれが強いです。
③被害者意識の強化
この概念を広く取り入れると、出来事をまず「被害者的に」受け取る習慣がつきかねないとの批判があります。
すると人生の出来事や指摘を「自分事」と捉えて成長する機会が失われることが危惧されます。
そして実際マイグロアグレッションとみなす際、その人の「考えのくせ」がかなり影響するのではとの指摘もあります。
<明確に対応が望まれる場面>
これらのように「どこまでマイクロアグレッションを取るか」というのはかなり議論があります。
ただ、一方で明確に望まれる場面・状況も少なからずあります。
代表的な例は「無意識の場合」「濫用している場合」の2つです。
①無意識の場合
無意識にやっている場合だと、その「無意識での攻撃」がずっと続いてしまうことになります。
逆に「悪意がない状態」なら、気づいて意識できれば改善が見込める面が大きいです。
なので、「気付くこと」がやはり大事です。
②濫用している場合
明らかに「濫用している」場合、攻撃される人が多くなり、多くの人が影響を受けます。
すると結果、「嫌味ったらしい人間だ」と思われるなど、自分の印象にも悪影響が出てしまいます。
そのため「できる範囲で減らすことは大事」です。
(6)マイクロアグレッションを「する」ことへの対策
これはもう「減らせる範囲で減らしていく」ことです。
具体的な方向は「自分の言動を観察する」「相手の文脈を理解する」「指摘を受け入れ修正する」の3つです。
①自分の言動の観察
話す前にその発言の特に「相手への影響は何か」を「行動分析」することは、この場面でも大事です。
その中で、この発言が相手にプラスのことが多ければ積極的に話します。
一方で、マイナス面が危惧される場合は、その発言はやめておくことが望まれます。
②相手の文脈の理解
相手の文脈や属性などの背景をなるべく理解をしようとするというところがまず大事です。
その上で、ある程度深いレベルの「相手へのリスペクトを持つ」こと。
明確な「パワハラ」なら表面的な対策で防げても、マイクロアグレッションでは「無意識」がにじみ出るため、より深いレベルでのリスペクトが大事です。
その一方で、これらを完全にやるというのは、なかなか現実的に難しいです。
完全にやろうとしてがんじがらめになってしまうと、お互い辛いですから、「まずはできる範囲でやる」のが現実的です。
③指摘を受け入れ修正する
このように言動を観察し、文脈を理解しても、どうしても発生してしまうこともあります。
そこで指摘を受けたとき「納得できる」「気づかなかった」ことなら「受け入れ修正する」のが一番です。
一方で、どうしても不合理と思われ納得できない場合は、その根拠を示しつつ感情的にならず、冷静に話し合い妥結点を模索します。
(7)マイクロアグレッション「される」への対策
「まずは「されている」に気付くこと」が大事です。
代表的なマイクロアグレッションを「される」時の対策は「されていることに気付く」「対策しつつ指摘するか検討する」「指摘時は冷静・慎重に」の3つです。
①「されている」ことに気付く
もし気付かない場合、はじめの例のように無意識にストレスが溜まり消耗して不調に至る恐れがあります。
対策の第一歩は、まずマイクロアグレッションされていることに「気づく」ことです。
気づくきっかけは「何かもやもやする」等の「違和感」等があると思われます。
②対策しつつ指摘するか検討する
実際「指摘する」ことは、明確なパワハラ等よりもある面でリスクは高くなります。
ある種相手を(仮に無意識でも)加害者にする結果にもなるため、慎重に検討する必要があります。
まずは「距離を取る」「受け流す」「ストレス対策」など、他の対策を取っていきます。
ただ、それでも「あまりに多く言われる」「対策を取ってもきつい」等の時に、「指摘する」ことを想定します。
③指摘時は冷静・慎重に
指摘の際、言い方等によっては「加害性」が目立ち、トラブルのリスクも発生するため、慎重な指摘が必要です。
言った相手の人格は尊重する。一方で発言内容は「ちょっとこれは嫌でした」とを指摘して改善を促す。
「相手の人格と言動を分ける」ことが非常に大事です。
そして、相手によりそれでも高リスクの場合もあり、上司を通じて介入する等のリアリズム的な対応も時に必要です。
(8)まとめ
今回は、精神科・メンタル分野の言葉「マイクロアグレッション」について見てきました。
「マイクロアグレッション」は一見不明確な、細かい攻撃的な言動です。
無意識に受け続けるとストレスがたまって「うつ」などになるリスクがあります。
どこまでこのマイクロアグレッションを適用すべきかというのは非常に議論があります。
ただ、少なくとも「無意識に」反復したり、「濫用」やりすぎてしまったりするのは避けたいところです。
もし「言われる」場合は、まずそのことに「気づく」ことが大事です。
その上で対策を取りながら、実際「指摘」までするか等は、相手などを踏まえて現実的に対策するのが大事です。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)