心理的安全性とは
自由に発言できる安全さ
心理的安全性とは、各人が議論などリスクある行動をとっても大丈夫と思える状態です。
その実現には、議論しても壊れない関係づくりと、明確なビジョン・タスクの存在が必要です。
もくじ
(1)はじめに:心理的安全性
精神科・メンタル分野の言葉。今回は「心理的安全性」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
ここ最近、企業や組織で「心理的安全性」の話題が多く出てきています。
これは適応障害、うつ病の予防といったメンタルヘルスの観点からも重要な面があります。
今回は、この「心理的安全性」について見ていきたいと思います。
(2)心理的安全性とは?
まずは、「心理的安全性」の、提唱者エドモンソン氏による定義は以下になります。
「対人関係でリスクのある行動を取っても基本的に大丈夫だと信じられる状態」
<リスクのある行動とは>
例えばグループの中で、批判リスクあっても「意見を言う」こと。
あとは人格否定にならない中での「健全な意見の対立」。
そして(失敗のリスクのある)「アイデアの提案」。
これらをしても大丈夫だと信じられる状態が「心理的安全性」です。
<心理的安全性が高い場では>
まず各メンバーがストレスを少なく行動でき精神的安定を保ちやすい事。
そして新しいアイディアや「熱量」が出やすいこと。
そして自ら学んで改善をしやすいことがあります。
<心理的安全性の低い場では>
各人が非常にストレスが高くなり、うつ病・適応障害等の精神不調のリスクが上がります。
そして失敗や批判を恐れ意見があっても言わず「黙っている」環境になります。
その結果、組織としての熱量も下がって新しいものも生まれない悪循環に至ります。
<とりあえず褒めれば心理的安全性?>
これは必ずしもそうではありません。
この心理的安全性に関しての一つの誤解が「対立しないでとりあえず褒めておけば心理的安全」的な話。
これは必ずしもそうではないというところです。
なぜならばまずそそ場合逆に「意見を言ってはいけない」との無言の圧力がありの心理的安全性が低いこともあり得ます。
そして仮に安全でも、意見からの発展等はないので、結果生産性はあまり上がりません。
<関連:よくある2極化>
ある種「甘い組織」と「スパルタ的な組織」の2極化が言われます。
「甘い組織」だと確かに人を傷つけないのはいいのですが、意見も出なくて、発展や切磋琢磨につながりにくい。
一方で、「スパルタ的な組織」だと意見や切磋琢磨はある一方、しばしば人格否定や「潰し合い」的部分が出ます。
<2極化の背景>
これは特に日本で多いですが、その人の「人格」と「仕事」の評価が混じってしまいやすいことです。
混じってしまうと、例えば仕事上の意見を言えば、もう混じった「人格」も否定することになってしまいます。
また「人格否定しない」に注意すれば、「仕事への意見」も言いづらくなってしまう。
このどちらかになってしまうことが多いです。
<2極化の対策>
基本的にはまず「人格」と「仕事」を明確に分けること。
その中で「人格」は最大限尊重して傷つけないのを前提にします。
一方「仕事」に関しては、結果を目指す中で生産性や改善のために話し合い、議論も必要になります。
まとめると「人には優しく仕事には厳しく」となるかと思われます。
(3)各場面での心理的安全性とメンタルヘルス
<心理的な安全性が低いと、各メンバーに起こること>
まずはいわゆる「過剰適応」、自分の本音よりも場に合わせ、「生存」を図るようになります。
2つ目は、その反動としての「対人不信」本音でやれないから、人が信じられなくなります。
3つ目が「うつ病や適応障害の発生」、ストレスが慢性的に続くので、メンタル不調が起きやすくなります。
<場面①職場>
ここで一番注意なのはいわゆるパワハラや、細かく管理しすぎるるマイクロマネジメント等です。
これらで心理的安全性が下がりますと、うつ病・適応障害のリスクは上がってきます。
そして組織としての熱量・発想・生産性が低下します。
<場面②親子関係>
よくある「厳し過ぎるという親子関係」の他、「条件付きの承認」親側の要求に沿ったことなら褒めるが、違うことをしたらこき下ろす敵な事には注意が必要です。
安全性が下がりますと、一方で「過剰適応」が生じ、もう一方で「対人不信」「自己否定」が生じやすくなります。
その結果、うつ病や適応障害のリスクも上がってしまいます。
<場面③同年代グループ>
典型的な「いじめ」「無視」の他、小競り合いや「マウンティング」など「細かい攻撃性」にも注意が必要です。
これらで安全性が下がりますと、人間関係が表面的になり緊張が持続したり、「対人不信」が考えのくせになる事があります。
その結果、うつ病や適応障害リスクはやはり上がってしまいます。
(4)心理的安全性を上げる対策
<対策の3本柱>
1つ目は「人格と仕事を分ける」こと。
2つ目は「関係性(ラポール)」の話。
もう一つが「方向性と作業の明確化」です。
①人格と仕事を分ける
どうしても「人格」と「仕事」が混じると、「人格否定」か「言えなくなって動けなくなる」か二択になってしまいます。
なので、対策としてはこの2つを明確に分けることをを徹底します。
特に日本ではどうしてもこの2つが混じりやすいため、意識的に分ける事が大事です。
②関係性(ラポール)
意見を言うために、土台の信頼関係があるからこそ言えるというところがあります。
なので関係性をしっかり作っていくというところがあります。
その関係性は、上の方で押し付けるのではなく、それぞれの個性に合わせた生かし方を、組織運営ができる範囲の中で模索していきます。
よく台本の当て書きみたいな話がありますけども、相手の個性に合わせて色々やり方を工夫していくということがあります。
③方向性と作業の明確化
仕事の「方向」、ビジョンやタスクが明確だからこそ、人格否定なく意見や要求・議論ができる面があります。
そして、明確の目標があるからこそ、迷わず、熱量を持って取り組むことが可能になります。
なので、なるべく曖昧にしないことが大事です。
その中で特に「ダブルバインド」、片方では「やる」もう一方では「やるな」など、矛盾した指示を出すことは厳に慎む必要があります。
(5)まとめ
今回は、精神科・メンタル分野の言葉「心理的安全性」について見てきました。
心理的安全性とは、対人関係において「リスクがある行動を安全に取ることができるという状態」。
これは「ただ褒める」ではなく、「尊重を土台としながらも発言・意見が言える状態」が望まれます。
職場・親子・同年代ともに、心理的安全性が下がると自己否定・対人不信、そしてうつ病・適応障害のリスクが上がるため注意が必要です。
そして、心理的安定性を上げる対策としては、まずは「人格と仕事とを分けた」うえで、まず関係性を構築していく。
それを土台としながら「やるべき方向性や作業などを明確化」して、そこで熱量を上げていくことが大事になってきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)