リカバリー
病があっても主体的に生きる
リカバリーは、精神疾患・障害があっても主体的に生きること。
統合失調症のほか、各種精神疾患の社会復帰に大事な考え方です。
もくじ
(1)はじめに:リカバリー
精神科・メンタル分野の言葉。今回は「リカバリー」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
もし、病気がただ「いろいろなものを失う経験」であれば、多くの人はそれを認めずなかったことにしようとするでしょう。
しかし、病気になっても「自分の人生」は守れるとしたら、そしてむしろ病気の経験が今後に生きてくるとしたら。
病気の見え方も、受け入れ方もきっと変わってくるんじゃないでしょうか。
今回は「リカバリー」についてみていきたいと思います。
(2)リカバリーとは
これは「病気に支配されず、自分の人生を生きる」ことです。
<リカバリーとは>
リカバリーとは、障害があっても様々な意味で「回復」取り戻していくことです。
人によって回復すべきことは様々ですが、特に「人生の主導権を取り戻す」意味が大きいと思われます。
<リカバリーの対象疾患の例>
いろいろなものがあります。
一番有名なのが統合失調症です。あとはアルコール依存症、そして発達障害のリカバリーを言われることがあります。
<リカバリーで取り戻すことの例>
これも人によってさまざまなことがあって、優先順位も変わってきます。
人によっては「生活能力を取り戻す」ということ。
人によっては「社会的な居場所を取り戻す」というところ。
そして多くの人にとっては「人生の主導権を取り戻す」などがあります。
<リカバリーの3要素>
1つ目が「パーソナルリカバリー」どう生きるかのリカバリーです。
2つ目が「社会的リカバリー」社会的な居場所などに関しての話。
3つ目が「臨床的リカバリー」症状その他の話になります。
①パーソナルリカバリー
パーソナルリカバリーは、「自分の人生の主導権を取り戻す」ことです。
<パーソナルリカバリーとは>
パーソナルリカバリーは、障害があっても、自分の人生の主導権を取り戻していくというところ。
自分らしさを持ちつつ、安定した生活や人生を確立していきます。
そして将来に希望を持って社会とつながっていくことを目指します。
<逆:いわゆる「患者モデル」>
これは以前言われていたもので、医師が症状等から診断をして処方と管理をするモデルです。
この立場においては、患者側の立場は「医師の指示に従い療養を続ける」になります。
そこでは「症状の消失」症状が消えることが目標で、どうしても受け身のモデルになってしまいます。
これに対して主体性を取り戻すというところのパーソナルリカバリーになります。
②社会的リカバリー
社会的リカバリーは、「社会の中の居場所を取り戻す」こと。
<社会的リカバリーとは>
社会的リカバリーは、障害があっても社会参加をしていくことです。
具体的には、仕事の獲得・定着の模索や、住居・生活の確立、コミュニティーへの参加等があります。
<現実的な資源>
まずは「障害者雇用」サポートがある中での仕事があります。
あとは「就労移行支援」2年を最大としてリハビリして仕事につなげていくもの。
人によっては「グループホーム」2年ほどで生活の訓練をしてひとり暮らしなどにつなげていくもの。
そして「当事者会」、同様の障害がありつつどう自発的に生きるか話しあうコミュニティーに参加する方もいます。
③臨床的リカバリー
臨床的リカバリーは「自分の症状は自分で管理する」ことです。
<臨床的リカバリーとは>
臨床的リカバリーは、症状・障害を最小化しつつ、残るものに関して自分で管理することです。
治療で症状を減らしつつも残る症状は対処していきます。
障害へはリハビリを続けつつ、残る部分には必要なサポートを活用します。
<症状のマネジメント>
これは自分の病気や症状をよく知った上で、治療に取り組んで残る症状をなるべく最小化する。
その上で残った症状に対処していき、社会生活への影響を最小化していきます。
<障害のマネジメント>
ここでは自分の障害とその影響とを正しく知った上で、リハビリなどを続けて障害をなるべく最小化します。
そして残った障害に対しては、サポートを受けつつ生活への影響をなるべく減らしていきます。
<自発的な取り組み>
自分で障害・症状について学んでいき、必要な治療・リハビリはしっかり行っていく。
その上で残った症状・障害に対して対策を行っていきます。
<3つのリカバリーは連動する>
この「パーソナルリカバリー(人生のリカバリー)は、他の2つの心理的な土台になってきます。
「社会的リカバリー」でまず生活という土台と余力を作って、他の2つに取り組んでいく部分があります。
そして「臨床的リカバリー」で症状や再発リスクなどを減らし、他2つを安全に行っていく部分もあります。
(3)リカバリーの対象疾患と実際
<リカバリーの対象疾患の例>
実際には多数の精神疾患・精神障害が該当します。
代表例は「統合失調症」「躁うつ病(双極性障害)」「アルコール依存症」、そして「発達障害」になります。
①統合失調症のリカバリー
統合失調症では治療や取り組みによって、まずは症状や再燃リスクをなるべく減らします。
そのうえで、就労支援など必要なものを活用して「再燃なき社会参加」を目指していきます。
これによって統合失調症はありつつも、自分の人生を主体的に生きていくことを目指します。
②躁うつ病のリカバリー
躁うつ病では、治療の取り組みにより、まずは気分変動を減らして基本的な安定・寛解を図ります。
そのうえで、再発予防に細心の注意を払いつつ社会復帰を目指していきます。
これによって躁うつ病はありつつも、自分の人生を主体的に生きていくことを目指します。
③アルコール依存症のリカバリー
アルコール依存症では、様々な学びや内省、スキルなどを通じて「再飲酒防止」をなるべく続けます。
その中で仕事復帰や、人によっては自助グループなど教える立場での参加などを通じ社会参加を図っていきます。
これによってアルコール依存症はありつつも、自分の人生を主体的に生きていくことを目指します。
④発達障害のリカバリー
発達障害では、自分の特性を知りつつ、改善に対しての取り組みは継続していきます。
その上で残った特性にマッチした仕事を見つけていき、そこへの定着を図っていきます。
それにより発達障害はありつつも、自分の人生を主体的に生きていくことを目指します。
(4)まとめ
今回は、精神科メンタル分野の言葉「リカバリー」について見てきました。
リカバリーとは、病気・障害はありつつも、主体性を取り戻して生きていくことです。
これは「パーソナルリカバリー」「社会的リカバリー」「臨床的リカバリー」の3側面がありますが、それぞれが連動し総合的なリカバリーを図ります。
統合失調症の分野で有名ですが、ほか躁うつ病、アルコール依存症、発達障害等様々な精神疾患でこのリカバリーの概念は意味を持ちます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)