レジリエンス
困難から回復する力
レジリエンスは困難直面後に回復・適応していく力です。
うつ病等の精神疾患からの回復のためにも重要です。
もくじ
(1)はじめに:レジリエンス
精神科・メンタル分野の言葉。今回は「レジリエンス」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
挑戦することは、ストレスがかかるということとセットです。そして、挑戦することは、一定の確率で失敗することもセットになります。
ここで大事なのは「ストレスを受けない」「失敗しない」ことではなくて、「ストレスや失敗があっても、そこから回復し適応する」ということ。
これはメンタル不調の予防・治療・リカバリーにも大事なことになります。
今回はこの「レジリエンス」について見ていきます。
(2)レジリエンスとは
レジリエンスは「打たれても回復する力」です。
<レジリエンスとは>
レジリエンスは、逆境は困難に直面しても回復し、乗り越える力です。
精神分野のみならず、さまざまなビジネス等の分野で着目されています。
様々な因子がありますが、その多くは後天的に獲得することも可能とにされます。
レジリエンスの理解で大事なのがストレスの2つの要素「危険因子と防御因子」です。
<危険因子>
危険因子は、困難やストレスへのもろさをもたらす因子です。
これは災害・病気・貧困など外的な要素や、生活での慢性的なストレスなどがあります。
これは可能ならなるべく減らす。どうしても減らせないものは、「防御因子」で乗り切ります。
<防御因子>
防御因子は、困難やストレスから身を守る、いわゆる「レジリエンスを促す要素」です。
これを強化することで「困難があっても折れない状態」に持っていきます。
これは、「先天的な因子」「後天的な因子」「環境因子」などさまざまな要素があります。
基本的な方向としては「危険因子を減らして防御因子を増やす」ということになります。
<精神的回復力(小塩ら)>
ここで精神的回復力について、研究者小塩氏らの研究があり、3つの回復の力の要素が言われます。
①新奇性の追求
新しい物事に興味を持って前向きに取り組んでいくところ。
②感情調整
その中でも、特に怒りなどのいわゆるネガティブな感情をいかにコントロールするか。
③肯定的な未来志向
将来への楽観性を持つこと、そしてその土台としての自己肯定感を持つことです。
<レジリエンスを促す2つの要因(平野ら)>
ご質問としては「こういった能力は元から決まっていて変えられないんじゃないか」とあります。
答えとしては「変えられる要素は少なくはない」とお答えします。
平野氏らにより、レジリエンスを促す2つの要因が言われています。
①資質的要因
もとの性格・社交性などの先天的な要因です。
②獲得的要因
問題解決・自己理解など後天的に身につけていく要因です。
<レジリエンスの構成要素>
ここは諸説ありますが有名なのは、ライビッチ博士提唱の6つの「レジリエンスコンピテンシー」です。
「自己認識」「自制心」「精神的柔軟性」「現実的楽観性」「自己効力感」「人とのつながり」の6つです。
①自己認識
自分の考えや感情などを認識する力、いわゆる「セルフモニタリング」の力です。
②自制心
目的のために自分の思考・感情・行動などを変化させる力、一種の「セルフコントロール」です。
③精神的柔軟性
物事に対して、さまざまな視点から見て視野を広く取る、いわゆる「心の柔らかさ」です。
④現実的楽観性
「自分は未来をより良くできる」と信じ、そのために実際に「行動」することができる力です。
⑤自己効力感
途中いろいろあっても「最終的に自分はやれる」と思える、根本的なところでの「自己肯定感」です。
⑥人とのつながり
他者との信頼関係を作っていく能力。先天要素のほか、後天的な部分も指摘されます。
(3)精神疾患とレジリエンス
このレジリエンスは「多くの精神疾患の多くの部分で活用できるもの」です。
<精神疾患とストレス>
多くの精神疾患の発症にストレスが関与します。
そして、治療の中でもさまざまな角度でのストレス対策があります。
また、再発予防やリカバリーに対しても、ストレス対策が非常に鍵になります。
<精神疾患とレジリエンス>
多くの精神疾患はレジリエンスの強さで、ストレス時の発症リスクが変わるともされます。
なのでこの「レジリエンスの強化」が精神疾患の予防・治療等に有効と期待されます。
そして「レジリエンス」は後天的に高められる要素も少なくない事がポイントです。
<レジリエンスが影響する精神疾患>
このレジリエンスは、かなり多くの精神疾患に対して影響します。
「うつ病」「統合失調症」「発達障害」についてが代表的です。
<レジリエンスが影響する治療段階>
これは実際、ほぼ全段階が該当します。
「発症予防」「治療」「再発予防」そして「リカバリー」の全てに影響します。
①発症予防
発症予防でまず大事なのは「ストレスをまずはうまくかわす」こと。
そしてかわせなかったストレスを「受けた部分は回復する」ことです。
そして、その中でなるべく孤立せずストレスを共有することで、その影響を減らしていきます。
②治療
まずは「セルフモニタリング」自分の状態を見る能力を獲得していきます。
その上で「考えのくせの調整」や「視野の調整」など「精神的な柔軟性」を習得します。
そして振り返りなどを通じての「自己信頼」「自己肯定」を目指します。
③再発予防
まず自分の状態を観察して「再発の前ぶれに早い段階で気付く」ことが大事です。
そして、「ストレスをかわしていき、受けたら回復する」こと発症予防と共通します。
その中で主治医・友人等に相談して、悪化をなるべく防いでいきます。
④リカバリー
どうしても「リカバリー(自己実現)」を図っていくと、ストレスは増えてきます。
その中で「増えるストレスと自分の性質の観察」をしていきます。
そして、柔軟にかつ自信を持ち、「自分の人生を生きて」いきます。
その中で「自己信頼」自分を信頼することを土台に、他者との繋がりを模索します。
(4)レジリエンスの改善法
レジリエンスは、後天的な技術として獲得・改善できる部分も少なくないです。
「ストレスマネジメン」「思考の柔軟性」「マインドフルネス」「スキルトレーニング」がその例になります。
①ストレスマネジメント
ストレスマネジメントでは、「技術としてストレスを管理する」ことになります。
具体的にはさまざまな技法がありますが、それを状況に応じて、複合的に使っていきます。
その中で「新しい技術」は、徐々に反復練習などして身につけていきます。
②思考の柔軟性
まずは「認知再構成」、「別の見方を探す」ことを日々のの習慣にしていきます。
そして、一歩引いて全体を見る「メタ認知」も有効です。
その上で、自分の行動の自他への影響を分析する「行動分析」も参考になると思われます。
③マインドフルネス
マインドフルネスは、自分の思考・感情などを観察する練習です。
これは他の色々な介入をする為の土台にもなり、非常に大事です。
習得には得意・苦手は実際ありますが、苦手でも反復練習で徐々に習得する余地があります。
④スキルトレーニング
先天的な「弱点」は人により様々ありますが、ここを「スキル獲得」でカバーしていきます。
「感情調整」「問題解決」「ライフスキル」などさまざまなスキルがあります。
そして「対人面」も、とかくセンス的な話が言われがちですが、これも多くはスキルでカバーできる余地があります。
(5)まとめ
精神科・メンタル分野の言葉「レジリエンス」について今回見てきました。
このレジリエンスとは、ストレスや困難に直面しても回復・適応する力で、その中で後天的に獲得できる部分も少なくありません。
多くの精神疾患対策にレジリエンスが重要で、予防・治療・リカバリーの各段階で力を発揮します。
多くの要素は、反復練習で改善の余地があります。
自己観察(セルフモニタリング)を土台にさまざまなスキルを獲得し、ストレスに対して柔軟に対応できるようにしていきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)