セルフネグレクト
自分のケアをやめる
「セルフネグレクト」は自分へのケアをやめてしまう事です。
うつ病等が背景ですが、心身の影響強く、早期発見・早期対策が望まれます。
もくじ
- (1)はじめに:セルフネグレクト
- (2)セルフネグレクトの例
- (3)セルフネグレクトとは?
- (4)セルフネグレクトの原因
- (5)セルフネグレクトの影響
- (6)セルフネグレクトに気づく兆候
- (7)セルフネグレクトの対処法
- (8)まとめ
(1)はじめに:セルフネグレクト
精神科・メンタル分野の言葉。今回は「セルフネグレクト」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
日常生活では、食事、お風呂、片づけなどさまざまな自分のケアを行っています。
これらが億劫になると、生活全般が乱れ、健康を損ねるなど強く影響が出ることがあります。
この状況を「セルフネグレクト」といいます。
今回は、この「セルフネグレクト」について見ていきます。
(2)セルフネグレクトの例
Aさんはアルバイトをしつつ、大学生活をしていました。
2年生になってから、次第にいろいろなことが億劫になってきました。
食事もあまり取れず、体重が減り、シャワーも浴びないようになりまして、臭いから周りが異変に気付きました。
周りに勧められて受診をしたところ、「うつ病に伴うセルフネグレクト」と診断されました。
(3)セルフネグレクトとは?
これは「自分のケアをやめてしまうこと」です。
<セルフネグレクトとは?>
セルフネグレクトは、自分の日常的な生活とケアをやめてしまうことです。
うつ病などの精神疾患が背景のことが多いです。
進行すると、健康面・社会生活などに大きな影響が出てきます。
<セルフネグレクトの主な特徴>
①個人の衛生状態の欠如
風呂やシャワーなどに入れないところから衛生状態が悪化していきます。
②食事・栄養・医療の欠如
食事をあまり取れなくなったり、慢性疾患のある方治療が中断してしまったりすることがあります。
③住居の管理の放棄
家の状態がいわゆるゴミ屋敷のようになり、悪臭などから苦情が出ることもあります。
<どんな問題が起こるか?>
①健康問題
食事を取れず倒れたり、糖尿病などの悪化がみられる等が生じえます。
②生活の破綻
孤立してしまったり、実際ガス等のインフラが止まってしまったり、生活の継続が時に困難になります。
③周囲とのトラブル
例えばいわゆる「ゴミ屋敷状態」になった時に、周りからの苦情が来てトラブルになることがあります。
(4)セルフネグレクトの原因
精神疾患が絡むことが多いです。
<セルフネグレクトの原因の例>
まずは「孤独や支援の拒否」があります。
あとは「貧困」生活的な問題が影響することもあります。
続いては「身体的な健康問題」特に高齢者で体が動かずセルフケア困難になる事があります。
そして「精神疾患」になります。年代によって原因が少し変わってきます。
<高齢者での原因になる精神疾患>
一番多いのはやはり「認知症」になります。認知症がありセルフケア困難になり、いろいろ問題が起こる場合。
続いてが「うつ病」。「仮性認知症」と言うようにうつ症状からセルフケア困難が起こります。
背景に高齢者の方だとADLや身体機能の低下が背景にあることが多いです。
<若年者での原因の精神疾患>
まず多いのが「うつ病」。「うつ」症状から行動がおっくうになり、セルフネグレクトにつながります。
続いて「統合失調症」。最近では「地域移行」で長期入院から退院後、生活困難からこのリスクがあります。
そして「発達障害」、障害が一定以上の重さになると、生活が難しくなる場合があります。
<原因となる代表的な各種の病気>
①認知症
物忘れなどから生活能力が低下してセルフネグレクトになる場合があります。
特に体の状態が悪いと、さらに深刻化しやすい面があります。
介護家族の急病など、介護体制の変化があった時に顕在化する事があります。
②うつ病
意欲低下が続きますと生活に関わる活動全般が億劫になり困難になってしまいます。
そして、症状等からの孤立「人を避ける」からさらに悪循環に至ります。
一方で診断・治療では抗うつ薬等の「標準治療」で、改善を見込みやすい面があります。
③統合失調症
いわゆる陰性症状・認知機能障害という生活面の障害から、生活能力・活動意欲などが低下します。
さらに幻聴などの陽性症状が合併したり悪化すると、状況がさらに悪化してします。
治療は継続しつつ、デイケアや訪問看護の枠組みを設定することが時に有効です。
④発達障害(ASD・ADHD)
これらは双方とも生活技能(ライフスキル)の困難が多く、リスクが高いです。
ADHDでは集中困難から部屋が散らかりいわゆる「ゴミ屋敷」になるリスクがあります。
ASDの方は「社会性の困難」「こだわり」から孤立し、生活困難が悪化することがあります。
<他の原因となる精神疾患の例>
⑤アルコール依存症
飲酒以外のことへ関心がなくなり、生活が破綻してしまうことがあります。
⑥躁うつ病
慢性のうつ状態が治療しても持続する中に「躁うつ病」が隠れている場合があります。
⑦社会不安障害
重度の社会不安障害では「引きこもり」や対人場面・社会場面回避からの生活困難が時に生じます。
(5)セルフネグレクトの影響
健康・生活・社会面に影響が出てきます。
①健康面への影響
1)身体的な健康
栄養失調・体重減少や慢性疾患の悪化など、様々な影響が出てきます。
2)精神的な健康
この状況が続くと、自己肯定感の低下、うつの悪化、孤立感などが出現します。
3)社会的な健康
対人交流が難しくなったり、孤立が深刻化することがあります。
②生活の質への影響
まずは健康状態が非常に悪化してしまうことが多いです。
そして精神面の不調が続き、社会的な孤立が生じます。
③社会的な影響
まず部屋の悪臭などから「近隣トラブル」に巻き込まれるおそれがあります。
そして「社会的立場を喪失してしまう」、労働者なら失職、学生なら中退に至ることがあります。
次に「対人関係の途絶」、親しい方との関わりも途絶えてしまうことがあります。
(6)セルフネグレクトに気づく兆候
「自分で気付くこと」と「周りから見えること」があります。
①自分で見える兆候
まず「おっくうで日常の動作が困難になる」。入浴や洗濯などが困難になります。
そして、「誰とも関わりたくなくなる」結果関係が途絶え、孤立を実感します。
また、「体重減少や慢性的な体調不良が続く」場合があります。
②周りが気づく兆候
1)表出の変化
体重が減って痩せて見えたり、表情がうつろになったり、においなどで気付かれる場合もあります。
2)行動の変化
孤立してしまったり、人前に出なくなるなどの変化が出てきます。
3)住居の変化
いわゆるゴミ屋敷状態になり、においなどの変化が出る事で気づかれる場合もあります。
(7)セルフネグレクトの対処法
「なるべく早めにしっかり治療」がポイントです。
対処法の方向性は「早めに気づく」「(必要時の)精神科的治療」「関わりの回復」の3つです。
①早めに気づく
状況が続き重症化するほど介入が困難になるため、前述の兆候などからの早期発見を図ります。
そして多くの場合は精神科の受診が対策の一つになるかと思われます。
②精神科的治療
うつ病などのように的確な診断・治療をすることで、改善を図れることは多くあります。
そして、重度の場合や、服薬困難などで外来のフォローが難しい場合などは、入院治療も選択肢です。
そして、人により「デイケア」「訪問看護」等の補助的な枠組みが有効な場合もあります。
③関わりの回復
関わりの回復は、孤立からの悪循環を防ぐという目的で大事です。
ただし「関係性を無理やり強制する」のは、精神状態には時に逆効果になるため、慎重に検討します。
特に精神疾患がある時は、その治療をまず行い改善後に「関わりの回復を図る」ことが望まれます。
(8)まとめ
今回は、精神科・メンタル分野の言葉「セルフネグレクト」についてみてきました。
この「セルフネグレクト」は、自分のケアをやめてしまうことで、続くと健康面・生活面・対人面に重大な影響が出ることがあります。
多くは背景に精神疾患があります。高齢者では「認知症」が、若年者では「うつ病」が多いですが、他の原因の場合もあり得ます。
早期対策は重要です。表出の変化などから早目に気づいて、早めに受診して早めに治療につなげていくことが大事になってきます。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)