ストレングスモデル

弱点より強みに焦点を

「ストレングスモデル」は、相手の弱点より強みに焦点を当てる方法です。

 

統合失調症、うつ病、発達障害等のかかわりで応用されます。

 

動画:ストレングスモデル

もくじ

 
  1. (1)はじめに:ストレングスモデル
  2. (2)強みを生かすか、弱みをカバーするか
  3. (3)ストレングスモデルと精神医療
  4. (4)対象疾患とストレングスモデルの実際
  5. (5)まとめ
  6.  

(1)はじめに:ストレングスモデル

精神科・メンタル分野の言葉。今回は「ストレングスモデル」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

人は誰しも「強み」と「弱み」があります。

「弱み」を改善するのは大事なことですけれども、そればかりだと次第に自信が、自尊心がはがれていきます。

そんなときに「強み」を思い出すことで、もう一度前を向きやすくなる。

精神疾患の治療でも、この「強み」を生かす考え方があります。

今回は「ストレングスモデル」について見ていきたいと思います。

(2)強みを生かすか、弱みをカバーするか

この「強みを生かすか、弱みをカバーするか」が非常に大事なテーマです。

<強みを生かす>

これは長所に注目して、それを生かすことで適応などを図っていく方法です。

これをやっていくと、自分らしさや自尊心を持ちやすいというところがあります。

一方、弱点があまりに大きすぎると、このやり方は成立しなくなります。

<弱みをカバーする>

これは弱点に注目して、その影響を最小化することで適応などを図る方法です。

これは弱点が非常に致命傷になってしまう場合においての不適応を減らせます。

一方で「弱点は消えるわけではない」、そして弱点ばかり見ると次第に自己否定に陥る恐れがあります。

<どちらの方法も一長一短>

弱点が大きな致命傷になっているのであれば、その改善を優先します。

一方で、長所を生かすことが打開点になる場合、そこを伸ばすことになります。

そして多くの場合は、どちらか一方だけではなく、重点は様々ですが、双方を併用します。

(3)ストレングスモデルと精神医療

<ストレングスモデル>

ストレングスモデルは、当事者の「強み(長所)」に焦点を当てていく考え方です。

1970年代にチャールズ・ラップ教授が提唱したと言われます。

特に近年非常に普及あり、今では発達障害の支援などで一般的な考え方になっています。

一方「以前は一般的な考えではなかった」のも確かです。

<以前の「医学モデル」>

以前の医学モデルは、「精神の病」を「医師が診断をして治療する」事が最優先のモデルです。

そうなると症状(弱み)とその改善が診断と治療になり、弱みが焦点になります。

そして当事者は「治療される」立ち位置のため、必ずしも自発性は求められませんでした。

<医学モデルの弱点>

まず治療をしても一部症状(弱点)・後遺症が残る部分があります。

そして、「当事者の社会参加」という視点は、このモデルにはあまりありません。

同様に、「当事者の人生をどう生きるか」というところへの視点というのも同じく不足を指摘されます。

<症状(弱み)への偏重の弱点>

まず1つ目は「当事者の自尊心の低下」、いくら治療をしても症状は残ること等が、自尊心の低下要素になってきます。

そして「未来に希望が持てない」、仮に症状が改善しても、その後の「社会参加など」が見えないと、希望を持ちにくいです。

そして「診断の受け入れの葛藤」受け入れたところで未来が見えず自尊心が低下する結果なら、なかなか受け入れがたいです。

この対策として、ストレングスモデルがあります。

<ストレングスモデルの実際>

症状(弱み)に関しては減らす一方、0にすることには必ずしも固執しない。

そして逆にその人の持つ「強み」を重視していく方法です。

「自発性」から自尊心を戻し、社会参加や人生の追求をしていきます。

<類似①レジリエンス>

レジリエンスは「困難に対して乗り越える・回復する能力」。

ここで持続する精神障害が発生しても、自己信頼を土台として障害を乗り越えて回復することを目標にします。

<類似②リカバリー>

「リカバリー」は、障害があっても、自分の人生を主体的にやっていくというところ。

その中で症状や機能の回復というのは土台にはなります。

しかしそれ以上に主体性・自発性・人生を生きるための取り組みを重視します。

(4)対象疾患とストレングスモデルの実際

<対象疾患>

ストレングスモデルは、大半の精神疾患において該当するところがあります。

今回は例として「統合失調症」「うつ病」「発達障害」の3つを見ます。

①統合失調症

<治療しても残る弱点>

まずは「再燃のリスクはずっとつきまとう」こと。

2つ目は「陰性症状や認知機能障害」、生活や対人交流でどうしても障害が出ます。

3つ目は、人によっては「一部の陽性症状が残り続ける」場合もあります。

<ストレングスモデルの活用>

まずは「得意分野を活かして色々な活動をしていく」。芸術的な活動をされる方もいれば、仕事に繋げる方もいらっしゃいます。

あとは「ボランティア活動など」、病気の体験があるからこそ人へ貢献することに純粋になれる指摘もあります。

3つ目は「当事者としての発信」、病気の経験をしたからこそ、発信できることは色々あります。

②うつ病

<治療後も残る弱点>

まず「再発のリスク」は、どうしても残ってしまうところがあります。

そして「キャリアへの影響」、休職期間などでキャリアの影響が出る方もいます。

3つ目は「考え方のくせ」、人により「(過度の)自責」などのくせが残る場合があります。

<ストレングスモデルモデルの活用>

1つ目は「経験を生かしての部下などへのコーチング」、病気の経験を活かし、同様の状態の部下などへの助言が可能になります。

続いて「本来の自分の軸に沿った生き方の模索」、発症の背景には「軸」と仕事とのミスマッチが多く、経験から本来の「軸」への回帰を模索します。

そして「経験からの各種改善の提案」、実体験を通じ、社会的な政策や組織でのメンタルヘルス対策などへの提案をしやすい面があります。

③発達障害

<治療や取り組み後も残る弱点>

まずは「発達特性由来の症状」。「社会性の障害」「不注意」など、改善はしますが0にはなりません。

2つ目が「ライフスキル」生活する為の能力と言う点は、どうしても得意・苦手がばらつくので難しさが残ります。

3つ目は「対人関係での困難」「衝動性」や「社会性の困難」など、やはり一部不自然さなどは残りえます。

<ストレングスモデルの活用>

まずは「長所を生かしての社会貢献」、得意・不得意のばらつきがある中で強い長所を生かしての「社会貢献」を模索します。

2つ目は「個性を生かしての創造的なアプローチ」独特な視点は適応の面では弱点ですが、独自の活動にはプラスになる場合があります。

3つ目は「自分の特性に合った仕事を探す」突出した長所がなくても自分の特性を知ることで、その特性に合った仕事を探せます。

(5)まとめ

今回は、精神科・メンタル分野の言葉「ストレングスモデル」について見てきました。

ストレングスモデルは弱みよりも強みに焦点を当てる考え方です。近年で普及しまして、今ではだいぶ一般的になってきています。

精神疾患では、以前は症状(弱み)に焦点が当たっていましたが、リカバリー的な考えのもと、「ストレングスモデル」が最近は普及してきています。

このモデルは、精神疾患全般に応用可能です。「治療後も弱点は残る」ことは受け入れつつも「強み」により焦点を当て生かしていきます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)