昇華

怒り、悲しみも力に

「昇華」は、怒りなど本来否定的な衝動を建設的な方向に置き換える事です。

 

心理学的には、ストレスへの対処戦略「防衛機制」の1つです。

 

動画:昇華

もくじ

 
  1. (1)はじめに:昇華
  2. (2)「昇華」の例
  3. (3)昇華とは?
  4. (4)昇華のメリット
  5. (5)昇華のデメリット
  6. (6)昇華をうまく使うには
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:昇華

精神科・メンタル分野の言葉。今回は「昇華」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

「才能の壁を越えられる気がしない」「怒りや悲しみに振り回されてしまう」。こういったご相談を受けることがあります。

漫画の世界のような奇跡はなかなか起こらなくても、強い感情を力に変えられることができたなら、そして少しでも才能の差を埋めることができたなら。

そのヒントになりうるのが今回紹介する「昇華」になります。

今回は「昇華」について見ていきたいと思います。

(2)「昇華」の例

Aさんの家庭環境は決していいものではありませんでした。

学校でもいい立場とは言えず、絶えず怒りとイライラが続いている状態でした。

そんな中、Aさんは偶然ボクシングに誘われました。

怒りを練習への熱量に変えて、ボクシングの世界に熱中していきました。

結局は大きな怪我もあり、名声までは得られず引退をしました。

しかし、そこには怒りに飲まれていたAさんはもういません。

怒りも悲しみを熱量に変えて、新しい世界での挑戦を今でも続けています。

(3)昇華とは?

昇華は、「不適切な衝動を建設的なことに変換していくこと」です。

<昇華とは>

昇華は、ストレスや衝動などへの対処「防衛機制」の一つです。

怒りなど不適切な衝動などに対して、これを建設的な形に変換していくものです。

さまざまな防衛機制の中でも、健全な方法の一つとされています。

<防衛機制とは>

防衛機制は、人がストレスや不適切な衝動などを管理するための心理的な戦略です。

フロイトなどによって概念が提唱されまして、いろいろ整理されて今も使われています。

健全なものから不健全・不適切なものまで様々あります。

<防衛機制の例>

まずは「抑圧」嫌な感情に関して、無意識にそれを押し込めていく人がいます。

「投影」、自分の中の嫌な感情を相手に投影する、「自分が怒っていたら、相手が怒っているように感じる」人がいます。

「反動形成」、これは嫌な感情と逆の行動をとる、「怖いと思ったらあえて先頭に出る」等あります。

<昇華の例>

まず、悲しみをある種の「芸術作品」に変えていく場合があります。

また、怒りの感情をスポーツなどで発散して熱量とする場合があります。

後は、劣等感をバネに勉強などに集中してビジネスで成功する方もいらっしゃいます。

(4)昇華のメリット

これは「どんな感情もプラスの力に変えられる」ところです。

<昇華のメリット>

①不適応の減少

トラブルの原因になりうる否定的な感情・衝動を別の形に置き換え、不適応を減らしていきます。

②能力の上昇

不適切な衝動などを、熱量は保ち別の形に変えで、それを練習等に生かし、能力の向上につなげます。

③社会適応の改善

熱量を持って、能力の向上を図って結果が出ることもある。それによって社会的適応の向上にもつながります。

<どんな感情をプラスに変えられるか>

これはある種どんなものでも熱量があれば変えられるところがあります。

まずは「怒りの感情」を熱量に変えていくことができます。

また、「悲しみ」を芸術作品などで変える場合があります。

そして「劣等感」も何かやっていくための熱量に変える事があります。

<昇華で得られるものの例>

例えば運動などで反復して取り組めば「体力」などにつながります。

芸術作品などに打ち込んでいけば、それは「創造力」につながっていきます。

そして、勉強などの「頭脳的なスキル」につなげていくことも可能かと思われます。

(5)昇華のデメリット

使い方を間違えるとリスクは一部あります。

<昇華のデメリット>

①現実逃避

本来直面すべきことと無関係なことに昇華させてしまった場合に要注意です。

その場合一種の発散はできますが、現実逃避になり、自己覚知にマイナスになる場合があります。

②昇華への依存

昇華の高揚感を体験すると、なかなか目標や怒りなどがないと動機につながりにくいことが出る場合があります。

③疲労やストレス

ある種「高揚感」を持ち取り組んでいると、疲れやストレスは認識しづらい面があります。

しかし疲労等は潜在的にもたまるため、休まないでやり過ぎてしまうと、過労等の危険があります。

(6)昇華をうまく使うには

ポイントは「直面し、自分を知り、大事なことに自己表現をする」こと。

<昇華の活用に大事な要素>

①自己覚知

自分の状態や感所・衝動などがどうかを知ることが、昇華を生かすための第一歩です。

②現実への直面

現実に直面することで、プラスもマイナスも感情が揺さぶられます。

その熱量を「昇華」に使っていきます。逆に回避すると、時に逆効果です。

③自己表現

この熱量を行動や表現に変えていくこと、それを思うだけでなく表現、実践することが大事です。

<昇華の成功にとって有効な要素>

①自分の問題意識と連動する

問題意識と関係ないことで昇華すると熱量が続かず、「自己覚知をむしろ避ける」悪影響も出てきます。

問題意識あるからこそ感情が揺さぶられ続け、「昇華」の継続がしやすくなります。

②長所を生かす

熱量を持って反復練習しますが、長所と絡めていくことによって「結果がついて来やすい」です。

結果がついてくれば、またそれがモチベーションにつながる好循環に結びつきやすくなります。

③社会に貢献する

熱量ある取組みと「社会の困りごと」がうまくリンクすると、自分の課題の解決が社会の課題の解決につながります。

すると結果、社会の評価もついてきやすくなり、好循環が期待できます。

<土台は直面と挑戦>

直面をして挑戦することで、感情が揺さぶられ熱量が生まれます。

これはプラスの感情であれば、もちろんそれを生かしていきます。

一方で劣等感や怒り等マイナスの感情も「昇華」を通じて、プラスの熱量に変えうる面があります。

<避けるべきは「回避」>

マイナスの感情であっても、昇華によってプラスに変え売る面があります。

一方で感情等を「回避」すると、そもそもの熱量がないので、打つ手がなくなってしまいます。

なので、まずはやってみること。それを揶揄するような環境ではなく、むしろ歓迎する環境を選ぶことも大事です。

(7)まとめ

今回は精神科・メンタル分野の言葉「昇華」について見てきました。

この「昇華」は、ストレスへの対処「防衛規制」の一つで、怒りなどの不適切な衝動・感情等を建設的な形に変換していくものです。

マイナスの感情もプラスの形に変え、「適応の改善」「能力の上昇」の双方の実現を図ります。

この昇華を十分に活用するには、まず「自分の感情等を知り」そして「現実に直面し」しっかり「自己表現」をする事が大事です。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)