他責

他者に原因を求める

「他責」とは、ストレスや結果の原因が相手にあると思う事です。

 

暴力性あるため原則使いませんが、相手に悪意ある場合が例外になります。

 

動画:他責

もくじ

 
  1. (1)はじめに:他責
  2. (2)ストレスの反応3つの方向
  3. (3)他責とは?
  4. (4)他責の暴力性
  5. (5)他責が必要な時(例外)
  6. (6)まとめ
  7.  

(1)はじめに:他責

精神科・メンタル分野の言葉。今回は「他責」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

何かストレスやトラブルがあったとき、自分より相手を責める「他責」。

「他者を傷つけ、自分が満たされる」。基本的に望ましいやり方ではないと思われます。

一方で、自分や仲間を守るために「他責」に踏み出すべき場面というのも確かに存在します。

今回はこの「他責」についてみていきます。

(2)ストレスの反応3つの方向

ストレスへの反応は大きくは3方向になります。

ストレスがあったとき、まず自分の責任と思う「自責」があります。

あと、人によっては相手(他者)の責任と思う。これを「他責」と言います。

人によっては、どちらのせいでもないと思う。これを「無責」と言います。

この3つをまとめると、「自責」は自分の責任、「他責」は相手の責任、「無責」はどちらの責任でもない、と思う事です。

(3)他責とは?

これは「結果の原因が他者(相手)にあると思いふるまうこと」です。

<他責とは>

他責とは、物事・結果の原因や責任が他者にあると思いふるまう事です。

自他共に悪影響は強い面がある一方、、ある種自分たちを守るために必要な場面もあります。

<他責のメリット>

まず1つ目はストレスを溜めず発散できるところ。

2つ目は問題に気づき指摘することで改善に導ける場合があること。

3つ目は理不尽な要求などに惑わされず主張ができることです。

<他責のデメリット>

まずは何か直面して学ぶことがしづらくなること。

そして他者の尊厳を壊すことがあること。

その結果、人間関係や信頼度の悪化のリスクがあることです。

ここで質問として「他責はした方がいいですか?」があります。

答えは「例外を除いてはあまりお勧めできない」です。

(4)他責の暴力性

他責には、一種の暴力性があります。

<例:他責を受けた相手の心境>

まずは「行動や取り組みを否定された感覚」を持ちます。

あとは否定的な感情をぶつけられる場合もありえます。

状況によっては人格否定を受けて尊厳を傷つけられたと感じる場合もあります。

このように「他責された側」はある種「奪われた」体験をします。

これはたとえ「正論であっても」言われた相手は奪われた体験をします。

<他責をする背景の例>

まずは「無意識に」何となく習慣で無意識のストレス発散でやっている場合があります。

また、「ストレスが強い時」意識的・無意識で、双方ありえます。

もう一つは「自分が正しいと思うから」、一種相手に「よかれ」と思いやる人もいます。

しかしどんな背景でも「奪う」という結果は同じです。

そして奪われた相手はある種の「嫌悪感」を持ちます。

<関連:信頼残高>

これは、「相手に信頼してもらう行動をどれだけ取れたか」の一つの指標です。

何か人に「与えて」いけば増えますし、「奪う」ことをしたら減ります。

そして「与える」と「奪う」のバランスでプラスにいけば、関係は安定したいい方向になり信頼されます。

一方でマイナスになれば不安定になり、「信頼されない」状態になります。

<信頼残高と他責>

基本的に他責は信頼残高を減らします。

何かあった時、「自分でそれを受け止めない」ことが、まず信頼残高の減少につながります。

そして「相手への攻撃」、特に人格や尊厳を傷つけるようなことがある時は、特に重大な損失になります。

<正論の他責に謝ること、その本音>

ご質問として「実際やったら相手は謝りました。良いことをしたと思います」とあります。

これには「本当のところはどうでしょうか?」と答えます。

「自分の行ったことが正しいから相手は謝った」という主張です。

ただ実際は言われた方が「怒りに配慮して」もしくは「反論したらさらに再反論でつぶされる」リスクを考えた場合があります。

そういうところで本来納得してなくても謝ることもありえます。

この場合、他責された本人としては何か「モヤモヤ」否定的感情が残ることがあります。

特に内容がたとえ正論でも「人格否定」や「強い否定的感情」が混じっていた時、「どんな正論であっても許せない」と内心思うことはありえます。

<特に注意が必要な他責>

①無意識の他責

意識せず、知らず知らず「他責」をしていることがあります。

こうすると無意識のうち人から「奪ったり、傷つけたり」を繰り返していることになり、危険があります。

②否定的感情の混入

「他責」の際事実以外に「否定的な感情」が混じることがあります。

しかしそれは「他者への暴力性」を膨らませることになり、避ける必要があります。

③人格否定の混入

本来責めるべきは「出来事・行動」であり人格を否定することは望ましくないですが、時に混入します。

この場合、相手の尊厳を傷つけ、相手への影響や恨まれる度合いが急増するため避ける必要があります。

<どうしても他責が必要な場合はどうするか>

まずは自分の行動の「他責性」を理解し、かつどのレベルの他責性かを「観察」すること。

そこを土台に、必要時時は最小限に絞って他責し、かつ事後の相手のケアを忘れないこと。

そして否定的感情や人格否定は決して混ぜないようにすることです。

<他責のまとめ>

やはり他責は他者への暴力性をどうしても伴うため、例外を除けば、基本的には行わない方向です。

また、行う時もその暴力性を理解のうえ最小限にとどめます。

そして否定的感情や人格否定を混入させないことが大事です。

(5)他責が必要な時(例外)

相手に悪意がある場合は、時に他責での対応が必要になります。

<背景:正当防衛の考え方>

今、まさに相手、悪意ある相手からの侵入・侵略というのに直面している時。

かつ「それをしないと自分等を守れない」ということがあった時。

その時には「過剰でない範囲」での防衛行為が、正当防衛として認められるとされます。

<悪意への自責での対応の危険さ>

「悪意の他責」に対して「自責」で対応した場合に危険があります。

「他責」した方は反発されないので楽にストレスが発散できます。

一方で、「自責」側はともすると「指導してもらった」感覚になり、受け入れてしまう場合があります。

するとその状態にはまってしまい、悪い形で噛み合って慢性化してしまいます。

そうすると、自責側が慢性的に「他責されてしまう」状態に陥り、次第にストレスが強まり不調に至ります。

<悪意の他責と自責の例>

例えば上司から慢性的パワハラ、言い返せない中でのパワハラがずっと続く場合。

また「家族間での一方的な攻撃」が言い返せない中で慢性的に続く場合。

あとは集団内でのいわゆる「いじめ」、言い返せず自責する中で慢性的に続きエスカレートする場合。

<こうした場合「他責」は必要>

このように、「悪意の他責」に「自責」で対応する事には危険強く、他責での対応が必要です。

この場合、尊厳を守るための正当防衛としての「他責」の実践が想定されます。

この時に否定的感情などを混ぜることは必要ありません。

一方で尊厳を傷つけた事実や改善の要求に関しては、きっぱり言う必要があります。

そして、一人でそれをすることに危険や困難があることは実際少なくありません。

その時は必要時第三者の協力を仰ぎつつ、現実的な実践の方法論を検討していきます。

他責は原則、正当防衛に絞るというのがいいのではないかと思います。

(6)まとめ

今回は、精神科・メンタル分野の言葉「他責」について見てきました。

ストレスへの反応の方向は、「自責」「他責」「無責」の3つになります。

「他責」は、結果の責任が他者・相手にあると思って振る舞うことになります。

この「他責」は、確かにストレスがたまらない等利点もありますが、その他者への暴力性のため、原則としては推奨されません。

ただし、悪意ある相手に尊厳などを脅かされるような時は、一種の「正当防衛」としての「他責」が必要な場面もありえます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)