カサンドラ症候群
夫の発達障害等背景の適応障害
カサンドラ症候群は、主に発達障害等のある夫との感情交流困難から生じる適応障害・うつ病です。
まずは話し合いなど、他害がストレス少なく過ごせる接点を模索しますが、困難なこともあります。
その場合同居を続けるか、別居等するか。「相手が改善に取り組むか」「相手をリスペクトできるか」の2つが鍵です。
もくじ
- (1)はじめに:カサンドラ症候群
- (2)カサンドラ症候群の定義
- (3)背景に想定される夫側の要因(主にASD)
- (4)ASD(自閉症スペクトラム障害)の定義等
- (5)カサンドラ症候群:まず行う3つの対策
- (6)対策しても困難な時の3つの枠組み(同居・別居・離婚)
- (7)どの枠組みがいいか?判断の2つの基準
- (8)判断基準①:相手が改善しようとしているか
- (9)判断基準②:相手をリスペクトできるか
- (10)まとめ
(1)はじめに:カサンドラ症候群
ご夫婦間での悩みのご相談を受ける中で、最近聞くことが多くなっているものが、「私はカサンドラ症候群でしょうか?」というご質問です。
今回は、このカサンドラ症候群について、大まかな対処の方向性などを見ていきたいと思います。
(2)カサンドラ症候群の定義
まずカサンドラ症候群の定義としては(ここでは、一般的な、妻がカサンドラのケースを想定)まず夫との感情的交流がうまくいかないことが続き、そのストレスから起こる適応障害とに定義ができるかと思います。
背景として、夫側に自閉症スペクトラム(ASD)などの感情的交流の困難が想定されます。
その結果、旦那様にいろいろ気持ちを伝えてもなかなか伝わらないということが繰り返され、孤独感などから慢性的なストレスを自覚するようになる。
その結果、それが続くことで身体の症状であったり、うつ症状であったりが次第に強くなってくる。こういった流れになってきます。
(3)背景に想定される夫側の要因(主にASD)
この場合、旦那様・夫側に感情でのやりとりの困難があることが背景に想定されます。
その中で一番想定されるのが、いわゆるASD自閉症スペクトラムです。障害として感情の交流が困難、難しさがあり、うまくいかない場合です。
一方他の原因として、自己愛性パーソナリティ障害で、あえて交流しないという場合もあります。
また、その他の要因としては、愛着障害、夫の精神不調、あとご夫婦間の相性の問題等もあり得ます。(今回は夫にASDがあった場合を想定します)
(4)ASD(自閉症スペクトラム障害)の定義等
この自閉症スペクトラム(ASD)は発達障害の一つ。対人的な交流の困難、こだわりの強さ、この2つが生来続く発達障害です。
この中で対人的な交流の困難というのは、感情のやり取り、雰囲気や感情のやりとりを自然にすることが難しいということになります。
その結果、雑談であったり、家での感情的なやりとりが苦手なことが多い。で、このASD典型的な方ですと初めの頃から分かることが多いんですけれども、実際は結婚後など途中で気付くこともあるということになります。
<途中で気付く理由>
1つ目としては、外では何とか適応を意識的に図っているんだけど、家で「素の状態」が出るという方もいらっしゃいます。
外だとそういう苦手な感情のやり取りが少ない職場であったという方もいらっしゃいます。
後は自己愛性パーソナリティ障害など別の原因があって、結婚後それが出てきたという方も中にはいらっしゃいます。
(5)カサンドラ症候群:まず行う3つの対策
対策としては、まず3つ代表的なやり方があります。
①話し合い
しっかりやってほしいことを伝える事です。特にASDがある配偶者の方ですと、しっかり明確に伝えるということが大事です。
ただ、明確に伝える上で、やはり相手へのリスペクトはあった上で伝えるということが大事と思います。
②カウンセリング
いわゆるカップルカウンセリングなどいいますけれども、第三者がカウンセラーとして入ってご夫婦間の関係を調整していくということになります。
これはできる機関がちょっと限られています。(当法人出は行っておりません)
③夫の受診と診断
旦那様に傾向があって、かつ旦那様自身がそこを受け入れる用意ができている場合、受診をするという気持ちの準備ができている場合はそれは一つの対策になるかと思います。
ただ、これは無理強いして、無理にやらせるとなるとこじれてしまうことが多いので、あくまで旦那様が受診を受け入れている場合に限るのがいいんじゃないかと思っています。
(6)対策しても困難な時の3つの枠組み(同居・別居・離婚)
一方、実際はこれ他の対策がいずれも困難なことを多く聞きます。その場合は、いわゆる環境調整が現実的になってきます。
環境調整・枠組みとしては大きく言うと3つ、同居しながらやっていく、別居してやっていく、離婚する、この3つがあります。
見ていきますと、まず同居に関しては、一緒に暮らしながら、徐々に歩み寄りを模索していきます。この場合は、ストレスは続くことになります。
別居に関しては、距離を取ることでストレスを軽減しつつ今後を模索しますが、家庭への影響とお子さんへの影響は生じます。
3つ目の離婚に関しては、もう一旦リセットすることですが、時に調停・裁判など負荷が増えるリスクはあります。
(7)どの枠組みがいいか?判断の2つの基準
この中で環境調整、どの枠組みがいいかというのは、それぞれいろいろな要素が、変数がありますので、ケースバイケースになってきます。ただ、2つ大事な要素があるというふうには考えています。
この2つというのは、1つ目は旦那様・相手の方が改善をしようと試みているか。2つ目はそれも含めて相手・配偶者を尊重・リスペクトできるかということです。
(8)判断基準①:相手が改善しようとしているか
1つ目は「相手は改善しようとしているか」というところになります。
もちろん、取り組みをしないと改善は困難です。例えば、相手の方が他責(奥さん側が悪い)に終始するなら、もうこれは改善困難です。
ここで、まず診断を受けてそれを受け入れたり、具体的に改善の工夫をしたり、奥様の方に改善してほしい点を聞いてくるなどあれば、改善のサインと推測できる面があります。
で、ここで一つ筆者の私見として大事だと思っているのは、結果よりも改善しようとしている「取り組み自体を評価する」のが大事ということです。
<その理由>
1つめとしては、自閉症スペクトラム(ASD)に関して受診をして診断を受けること自体が非常に大きな取り組みだと思うからです。
なぜならば、受診をすることは「障害があるという診断」を受ける可能性があるリスクを受け入れること。それはある種の自己否定になるリスクもあるわけですから、そこを含めて飲み込んで前に進むという決断を旦那さんはされたということは大きなことだと思います。
そして、2つ目としては、旦那様側が奥様をリスペクトしているかということなんですけれども、もし(夫が奥様を)見下していれば、そういう改善に取り組むような、苦手なことに直面する、一種泥水を飲むような取り組みをしないんじゃないかと推測できます。
3つ目としては、ASDの方が交流を少しでもしようとするなど「苦手に取り組む」時は、あまり結果は出にくい。すぐには少なくとも結果が出にくいということがあります。そしてエネルギーは使うんだけれども、徐々に徐々にということにどうしてもなってしまうと思いますので、その点を検討いただけると幸いです。
(9)判断基準②:相手をリスペクトできるか
2つ目のポイントとしては、相手をリスペクトできているかというところになります。
やはり対人的な関わり、交流の基本としては、相互の相互尊重・相手を相互にリスペクトしているということになります。
ここが崩れてしまうと、どっちかが見下すとかそういうことになってしまうと、健全な関係性ではない。健全な関係性は望みにくいということになります。
ここはお互いのことなので、どちらかのリスペクトが消えてしまうと厳しいんじゃないかと思います。
<リスペクト有無を見るチェックポイント>
①相手のいい面を実感できているか
悪い面がたくさん見えている中でいい面がないとしたら、もうこれはちょっとリスペクトじゃなくなっている可能性が高いということです。距離を取った方がいいかもしれません。
②内心相手をバカにしたり見下したりしていないか
「この人は交流できないから」みたいな見下しが(潜在的にでも)入ると、健全なアドバイスが難しくなります。これは相互的なところがあって、旦那様側が改善に取り組みせずにもう見下している面があれば、それはそれでやはり距離を取った方がいいという一つのサインになるかと思います。
③相手の結果の出ない取り組みを認められるか
苦手なことに取り組むというのは、なかなか結果が出ないことでもありますし、ある種滑稽に見える事でもあります。苦手なことをやっているさまは、ある種無様なふうに見えることだってある。そこを認められるかどうかというところは、すごく大事な要素なんだと思います。そこが滑稽にしか見えなくて「あーあ」って思ってしまうのであれば、それは距離を取った方がお互いのためなのかもしれません。
(10)まとめ
今回は「カサンドラ症候群」について見てきました。
カサンドラ症候群は、配偶者の方との感情的なやりとりの困難が続いて、いろいろうつ状態などが発症する適応障害の1種になります。
背景としては、旦那様側にいろいろ感情のやりとりがやりづらい。特に多いものは、いわゆる自閉症スペクトラムASDの傾向があることが少なくないとされています。
どうするかという取り組みをしていきますが、それでもうまくいかない場合、同居するか別居するか離婚するかということは、現実的な環境調整の選択肢になってきます。
この上で大事なポイントとしては、相手が改善する取り組み・努力をしているかということ。もう一つが、それも含めて相手を尊重リスペクトできるかということ。この2つが判断の材料になるんじゃないかと思います。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)