老年期うつ

高齢者に生じるうつ病・適応障害

老年期うつは、高齢者に出るうつ病・適応障害です。体の症状など「非典型的」な症状に注意を要します。

 

年齢・症状の特徴から、認知症・体の病気・薬の影響に関して隠れていないか見極めが必要です。

 

急性期は何より休養が大事で時に入院が必要です。薬も選択肢ですが、副作用が出やすく注意が必要です。

 

動画:老年期うつ

もくじ

 
  1. (1)はじめに:「老年期うつ病」
  2. (2)老年期うつ病の概略と症状の特徴
  3. (3)老年期うつ病と似た症状が出る病気など
  4. (4)老年期うつ病の背景と時期
  5. (5)老年期うつ病の治療①急性期
  6. (6)老年期うつ病の治療②慢性期
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:「老年期うつ病」

様々なうつ病・適応障害。今回は「老年期うつ病」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

うつ病にはさまざまな年代の方がかかりますけれども、これは高齢者の方も例外ではありません。

基本的には同じうつ病ということで治療などしていくんですけれども、一方では背景が違ったり、症状の出方が違うなど、高齢者特有の状況というのもあります。そこは注意が必要になってきます。

今回は、そこに関して高齢者のうつ「老年期うつ病」についてやっていきたいと思います。

(2)老年期うつ病の概略と症状の特徴

<老年期うつ病とは>

まず、この「老年期うつ病」についてまとめていきますけれども、これは原則65歳以上、高齢者の方がなるうつ病になってきます。

認知症や身体の病気と似やすくて、その鑑別ということが大事になってきます。

そして、薬が必要になることが多いんですけれども、一方で、副作用については注意が必要ということになります。

<老年期うつ病の症状の特徴>

基本的にはうつ病と同じではあるんですけれども、いくつか特徴があります。

1つ目としては、若年者の方で多いような落ち込みや気分の変動・波というのは比較的目立ちにくい。

2つ目としては身体の症状・食欲の低下だったり、「体が不調」という形が目立つことが多いということ。

3つ目としては意欲の低下・何もしなくなってしまったり、集中しにくくて物忘れが目立つ、こういったことが多いというのがあります。

(3)老年期うつ病と似た症状が出る病気など

そこにおいて、いわゆる鑑別疾患・似ている病気というところで見ていくと、1つ目は認知症、2つ目は体の原因、3つ目は薬の影響、この3つに注意が必要になってきます。

①認知症との区別

この高齢者のうつ病、「仮性認知症」とも言われるように、非常に見分けは難しい部分があります。

その中で分けるポイントとしては、うつ病と認知症、一番には自覚症状があるかないかというところと言われます。

物忘れがあったときに、うつ病の方だと忘れているという自覚があって、それに対して不安があると。「認知症ではないですか?」というご質問を受けることがあります。

一方で、認知症の方だと一般的には自覚症状があまりなくて、特に不安はない。特に困ったことはないですよという話が出てくることが多い。

ただ、当然合併することもありますので、全部がそうではないというところもあります。

②体の原因

代表的なものを見ていくと、1つ目は「甲状腺機能低下症」首のところにある甲状腺の機能が落ちるというところで、うつ病と似た症状が出ることが少なくありません。

2つ目が「脳の不調」小さい脳梗塞であったり、脳の硬膜下出血であったり、そういったところ、脳の不調というところから隠れていることが否定できません。

3つ目としては、全身状態の悪化、心臓の状態、肺の状態、肝臓の状態、こういう内臓の悪化などによって、そういうのが出てくることが否定できないということがあります。

③薬の影響

お薬・内科などで薬が出てくる中で、特に薬が多くなってくると、相互作用といって薬同士の影響があってリスクが上がるとされています。

どんな薬かといったときに、結構いろいろな薬が可能性としては否定できず、よくあるH2ブロッカーのファモチジン(ガスター)等の胃薬などでも出ることがあると言われます。

ただ、薬はなるべく絞った方がいい一方で「減らせない薬」もありますので、実際減らすかについては主治医の先生と相談をしていただけたらと思います。

(4)老年期うつ病の背景と時期

この老年期うつ病の発症の背景ということですけれども、1つ目としてはいわゆる大きなライフイベント配偶者の方が亡くなったりとか、いろいろ生活に変化を迫られたりとか、そういったことというのが1つ目として出てきます。

2つ目としては、人生の葛藤、これまで生きてきてある種人生の総決算というところになってくる。そこで、いろいろ考えることが出てくるというのは、人によってはあり得るかと思います。

3つ目は慢性的なストレス、人によっては関わりがなくなった「孤立」という問題がありますし、人によっては体が動きにくくなった「生活の困難」というのが慢性的にある方もいらっしゃいます。

老年期うつ病の時期というところで、大きく分けると急性期と慢性期というところになってきて、治療の方法はちょっと変わってきます。

(5)老年期うつ病の治療①急性期

まずは急性期、急に悪くなったときの治療というところで見ていきますけれども、基本的にこの時はもう休養をしっかりとって少しでも悪化を防ぐことが大事です。

具体的に見ていくと、まずは薬物療法・お薬の治療です。抗うつ薬と休養のための睡眠薬、抗不安薬などを使うこともあります。ただ、副作用には注意です。

2つ目が休養と食事の確保です。頭をなるべく休ませるということが特に大事。その中で食欲が減って食事が減ると全身の身体の状態に影響するので、そこにも注意が必要になっていきます。

3つ目が安全の確保です。そのように薬の治療だったり、休養とかをしてもどうしても不安定が続いたり、体重がどんどん減ってしまったり、健康を保てないという場合は、人によっては入院が必要になることがあります。

(6)老年期うつ病の治療②慢性期

一方慢性期、急性期を越えた後、もしくは慢性的に「うつ」がある時の治療ということになりますが、大きく分けると「薬の治療(薬物療法)」と「心理社会的治療」この2つに分かれていきます。

①薬物療法

1)抗うつ薬

抗うつ薬はしばしば用いますが、一方で、一般の方によく使うSSRIなどは副作用が出るリスクあり慎重に検討する必要があります。

そのかわりにスルピリドやミルタザピンという別の抗うつ薬を、比較的高齢者の方は副作用が出にくいということで使うことがあります。

2)睡眠薬

どうしても寝られないところから悪化するリスクが高いため使うことがあります。

一方で、高齢の方ですと転倒・転んでしまうリスクなどもあるので、なるべく危険性の少ない薬をなるべく少量で使っていきたい。

生活リズムなども合わせて、なるべく薬は減らしていきたいというのが睡眠薬に関してもあります。

3)抗不安薬

日中の不安を取るというところで使うことはありますが、これに関してもふらつきなどの副作用には注意が必要になってきます。

効果は少し弱まりますけれども、依存のない「タンドスピロン」という少し弱めの抗不安薬を使う場合もあります。

②心理社会的治療

1)日中の活動

これは動くことで、うつの改善を図るということもありますし、「日中動いて夜寝る」という生活リズムを保って不眠を予防するという両方の作用があります。

2)回想法

前のことを振り返って、楽しい思い出を思い出してうつを改善するという意味、もしくは気持ちを整理していって葛藤を減らすという意味があります。

ただ、これは正直人によって相性があるので、振り返って調子を崩す方は、むしろ今のことに集中した方がいいかとも思います。

3)環境調整

孤立などが悪化の要因になるため、参加できるコミュニティー等を探していくというところが一つ。

あと生活に困難があれば生活のサポートを入れていく。人によっては介護保険の制度も使って生活のサポートを入れていくということが、3つ目に来るかと思います。

(7)まとめ

今回は、「老年期うつ病」についてまとめてきました。

この「老年期うつ病」は高齢者の方のうつ病ですけれども、基本的にはうつ病である一方、症状の出方が若干違って、落ち込みよりも体の症状や意欲・記憶力の障害で出るのが特徴になってきます。

そのために、体の病気や認知症などと見分ける・鑑別するということは非常に大事になってきます。

治療として、急性期の状況はとにかく休養と安全確保が大事。一方、慢性期になってくると、薬は慎重に使いながらも、生活リズムなど心理社会的アプローチをうまく組み合わせていくことが大事になってきます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)