産後うつ
出産後に出現するうつ病
産後うつは、出産後に出現するうつ病で、産後のホルモン変化の影響が強いと言われています。
自然に改善することもある一方、急激な悪化もありうるため、早期発見、早期対策が大事です。
うつ病に準じて、なるべく休養しつつ抗うつ薬を主体とした治療を検討していきます。
もくじ
- (1)はじめに:産後うつ(産後うつ病)
- (2)産後うつのまとめと鑑別疾患
- (3)産後うつの治療
- (4)産後うつのトピック①:早期発見
- (5)産後うつのトピック②:授乳と薬
- (6)産後うつのトピック③:ストレス対策
- (7)産後うつのトピック④:重症のとき
- (8)まとめ
(1)はじめに:産後うつ(産後うつ病)
様々なうつ病・適応障害。今回は「産後うつ」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
心療内科や精神科の分野で、いわゆる産後うつのご相談を受けることは少なくありません。
これはご本人さんから相談を受ける場合、ご家族から普段と違うということで相談を受ける場合、あとは保健師さんから相談を受ける場合があります。
産後うつに関しては、いわゆる適応障害というよりは、ホルモンの変化などうつ病的な色彩が強く、治療すると改善がしやすい。
一方で、急な悪化も出やすいというところがありますので、非常に早めの、早期の対応が重要なものになります。
今回は「産後うつ」についてやっていきたいと思います。
(2)産後うつのまとめと鑑別疾患
<産後うつのまとめ>
産後うつは、産後数週間以内に発生するいわゆるうつ症状、落ち込みや意欲の低下などが出るものになります。
主には産後のホルモンバランスの変化がかなり影響するとされています。厳密にはまだわかっていないところが多いです。
そして急に悪化するということが時々あるということ、および2週間以上続くというところが特徴になってきます。
<鑑別①マタニティブルーズ>
これは産後に起こる一過性のうつ症状になります。原則2週間以内に改善するというものでありまして、これは治療はあまり必要ない。なお、産後うつは治療が必要というのが違いです。
これを見分けるポイントとしては「長く続くかどうか」。もっと具体的には2週間以上続くかどうか、続く場合は産後うつの率が上がりますので、注意が必要になります。
<鑑別②産後精神病>
これも産後うつと同じように産後数週間以内に出てきますが、こちらは幻覚や強い混乱など、いわゆる精神病症状と言われるものが出てきます。
これは産後うつよりは頻度は少ないんですけれども、症状が強いため入院が必要になることもあるので注意が必要。特に早めの対応が必要になるものになってきます。
(3)産後うつの治療
続きまして、産後うつの治療ですけれども、基本的にはうつ病の治療に準じます。休養をしっかりした上で、抗うつ薬の治療をしていくのが基本です。
この場合、授乳をどうするかというのが一つポイントにはなってきます。
保健センターなど関係のサポートというのが非常に大事になってくるというのが、この産後うつの特徴になってきます。
(4)産後うつのトピック①:早期発見
そして幾つかトピックがありますけれども、見ていきたいと思います。1つ目としては、早期発見ということになります。
うつ病に近く、治療は非常に効果があるんだけれども、急な悪化もあるため、早目に見つける、早期発見・早期治療が大事になってきます。
なので、何か普段と違うと様子であれば、早目の相談をお願いしたいと思います。
受診以外の相談の場として以下の3つが代表的です。
①産後検診
出産後の産婦人科での健診で相談する場合があるかと思います
②乳幼児検診
小児科でお子さんの検診があるときに、お母様の調子はどうですかということで話すことがあるかと思います。
③保健センター
受診の前にまず保健センターに相談するということもあり得るかと思います。
<EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)>
保健センターなどでよく扱うのがEPDS、エジンバラ産後うつ病質問票というのがあります。
これは10個質問があります。3点満点10個の質問があって、9点以上あると産後うつの可能性があるとされ、受診も選択肢になります。
<まとめ:受診を考えるとき>
今のように検診などでちょっと受診を勧められたという場合があるかもしれません。
そのほかに、ご自身の中でうつ症状が続く場合も、これは受診を考える場合になります。
あとご家族から見て何か普段と違う。ご自身では気づかなくてもご家族から見て何か異変があるときというのも一つのポイントになるかと思います。
(5)産後うつのトピック②:授乳と薬
2つ目のトピックとして授乳と薬という話になります。
産後うつの場合、うつ病に準じて抗うつ薬などで治療することがしばしばあるんですけれども、ここで悩ましいのが授乳をどうするかということになります。
よく言われる話として、薬を飲んだら授乳は絶対ダメとか、授乳をするので薬は使えないとか、こういった話をよく聞くんですが、現実的には症状の強さと授乳をどうするか、総合的な判断が必要になってきます。
<なぜ授乳時に薬に注意が必要か>
薬がなぜそうしたデリケートな話になるかというと、薬の母乳への移行(母乳に薬が移ること)があります。
薬は飲みますと全身、血管を流れていきまして、当然母乳の方にも移っていきます。
そのため、母乳を通じてお子さんの方にも薬が一部行くということになります。
実際、このどこまで母乳に移ってかつ影響はどれぐらいあるかというのは、薬によって非常に違いが大きいところになります。
<現実的な対策>
現実的な対策としては、軽度であれば漢方を使う、影響の少ない漢方を使うと。
あと一定以上の重さがあれば、授乳をやめて確かに薬を使うというのが安全策ではある。
ただ、最近ですと、抗うつ薬などは必ずしも禁止とは書かれなくなってきています。
授乳希望の時は、婦人科・精神科、両方と相談して使うべきかどうか、メリット・デメリット両方を見て相談することが大事かと思います。
(6)産後うつのトピック③:ストレス対策
トピックの3つ目としては、ストレスの対策ということがあります。
うつ病的色彩が強いので薬の治療が大事ですが、悪化を防ぐために、やはりストレスをなるべく減らすということは大事です。
端的に言えば、御本人さんがなるべく休める、あまり考え事をしなくて済むような状態が望まれる。そのために家でもサポートが大事になるんですけれども、現実的には難しいこともあると思われます。
そういった時には、関係機関への相談が非常に大事になってきます。
例としては、まずは保健センター、保健師さんがいる保健センターへ相談をするというところ、あと市町村で子育て支援センターというところがあります。そこに相談するのも方法。あとは子ども家庭支援センター、ここに相談するということもあるかと思います。
(7)産後うつのトピック④:重症のとき
4つ目としては重症な時です。
基本的には外来で休養や抗うつ薬等で治療していきますが、時に入院が必要になる場合もあります。
具体的に見ていきますと、例えば自分を傷つけるおそれが強くある時、また食事をとれないなど健康に非常に影響や危険があるという場合、3つ目としては混乱が強くて安全の確保が難しいという場合があります。
こういった場合に「お子さんの対応をどうするか」は基本デリケートな問題ですが、この場合は保健センターに相談し、調整することが多いです。
(8)まとめ
今回は産後うつについて見ていきました。
産後うつは産後数週間続くうつ状態になりまして、早めの対応が大事になってきます。
検診を活用したりご家族と相談するなど、早めに対策することが治療にとって非常に大事になってきます。
治療としては、基本的にはうつ病に準じた抗うつ薬などの治療をしていきます。
授乳に関しては、主治医の先生などと相談していただけたらというふうに思います。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)