新型うつ病

今の分類では「適応障害」

新型うつ病は、「以前のうつ病」と違い、ストレスで症状が変動するなどあり、異質性から注目されました。

 

現在では「うつ病」と「適応障害」を連続した概念で考える事も多く、その中では「適応障害」に入ります。

 

治療も適応障害に順じます。状況等により、環境調整とストレスマネジメントの組み合わせを模索します。

 

動画:新型うつ病

もくじ

 
  1. (1)はじめに:「新型うつ病」
  2. (2)「新型うつ病」の定義
  3. (3)以前の「うつ病」概念と、異質なものとしての「新型うつ病」
  4. (4)最近の変化:「うつ病」概念拡大と「適応障害」概念の普及
  5. (5)以前と今の「うつ」モデル
  6. (6)現在の「新型うつ病」の位置づけと治療
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:「新型うつ病」

様々なうつ病・適応障害。今回は「新型うつ病」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

約15年ほど前、うつ病の啓発が進んでいく中で、いわゆる「新型うつ」もしくは「新型うつ病」という名前がしばしば出てくる時期がありました。

そして、ここ最近を振り返ると、以前ほどはこの名前を聞かなくなってきています。これはなぜかというところ。

今回はこの「新型うつ病」についてちょっと見ていきたいと思います。

(2)「新型うつ病」の定義

まず、この「新型うつ病」の定義ですが、約15年ほど前ぐらいに「従来のうつ病と違うタイプのうつ病がある」ということで、この新型うつ病が出てきました。

会社ではうつになるんだけれども、外に出て趣味のことをやる分には全然動くことができる。こういったことに対しての新型うつ病という名前が出てきました。

この新型うつ病なんですけれども、いわゆるDSM-5などには診断基準では載っていないものになります。

(3)以前の「うつ病」概念と、異質なものとしての「新型うつ病」

ここは以前のうつ病の概念とすごく関連するところがあって、これが逆に言えば、ここ最近はあんまり聞かなくなった理由にもなってきます。

<以前のうつ病>

ここで「以前のうつ病」ということで振り返っていきます。

これは昭和時代などのイメージで見ていただけたらと思うんですが、以前のうつ病というと、いわゆる「内因性うつ」とも言われるもの。

典型的な話をすると、いわゆる真面目な方がかなり頑張りすぎて、いよいよ限界を超えて動けなくなった。こういうときにいわゆるうつ病ですねという診断があったというのが以前の話になります。

この場合ですと、もちろん脳の不調があって、かつそれがかなり症状が進んでいる段階というふうに捉えられます。

その中で、治療としてはかなり長期の治療・薬もしっかり使うという治療が必要だったということがあります。

繰り返しますけれども、かなり重症化してうつ病の診断を受けるというのが以前のうつ病の状況でした。

<新型うつ病と、以前のうつ病の違い>

そういった中で15年前、「新型うつ病」と「(従来の)うつ病」の違いというところがかなり明確にあったわけです。

先ほどの例でいくと、もうエネルギーが切れてしまうという状態に対して、このいわゆる新型うつ病ではストレスから離れると改善をすると、かつ薬の効果が必ずしも明瞭ではないというところがありました。

こうすると、以前のうつ病と比べると明らかに「異質」、ちょっと違いが大きいということがありまして、新型うつ病という言い方になったということがあります。

(4)最近の変化:「うつ病」概念拡大と「適応障害」概念の普及

では、なぜここ最近では聞かなくなってきたのかを考えますと、うつ病も含めた様々な診断を「どこまで取るか」の概念の変化が大きいと考えています。

<変化1:うつ病に対しての変化>

うつ病に関しては、DSM-IV、5が主流になり、うつ病の基準が以前よりだいぶ広くなりました。

ただ、その中でも、「新型うつ病」はうつ病には含まれない。2週間以上続かなくて変動しますので、含まれないということにはなります。

一方でそこまでの「新型」ではないが、以前のうつ病ほど重くない方も「うつ病」の診断がつくようになり、先ほどにあった明らかに「異質」という面はだいぶ減ってきました。

<変化2:適応障害の概念の周知>

この「適応障害」、以前はあまり用いませんでした。

以前の皇太子妃の診断で適応障害が使われたというのがありましたけれども、それでもなかなか一般には使われませんでした。

ただここ最近の流れとしてはDSMでうつ病の範囲がかなり広がりました。

その中で、でもそこにも該当しない「ストレスから離れてから改善するといううつ状態」の分類で、この「適応障害」という概念が次第に普及しました。

うつ病・適応障害と、ある種もうひとまとめにしての概念ということで普及してきたというところがあります。

(5)以前と今の「うつ」モデル

<以前のうつ病モデル>

以前と最近のモデルの違いを見ていきます。

以前ですとうつ状態というのがあった中で、非常に症状が強く出ている「うつ病」というのがあって、残りは抑うつ神経症と言われたりして、「うつ病」という重いところを強く取るというのがありました。

ただ、これだと、なかなか早期治療には結びつかないというところが弱点です。

<今のうつ病・適応障害モデル>

では、初期治療などを踏まえて、今の概念として見ていきます。

そこでは「うつ状態」というところがあったときに、うつ病の要素・脳の不調が強い方はうつ病。

ストレスの反応の要素が非常に強い場合は適応障害です。

実際はその中間の方々もいてオーバーラップすることもあるというのが最近の見方になっていきます。

(6)現在の「新型うつ病」の位置づけと治療

<新型うつ病の現在の位置づけ>

現在「新型うつ病」の位置は「適応障害」、その中でもうつ病に近くない・脳の不調の要素が少ない所に該当すると思われます。

なので以前にあった「新型うつ病」の今の位置づけとしては、診断名は「適応障害」、その中でも、うつ病のような脳の不調の要素が少ないものになります。

<新型うつ病の治療>

ではこの新型うつ病の治療を最後に補足しますけれども、これはもうまさに「適応障害」の治療に準じる、ストレス対策が第一になってきます。

その中で、外的なストレスが多ければ環境調整をしますし、繰り返してしまったり、ストレスがたまりやすいという特徴があれば、ストレスの対処法・ストレスマネジメントを身につけていくということが出てくるかと思われます。

(7)まとめ

今回は「新型うつ病」についてまとめてきました。

この新型うつ病は、今でいう適応障害の一部になってきます。

以前のうつ病の概念からの異質性から新型というふうに言われた歴史がありますが、近年ですとうつ状態をより包括的にうつ病・適応障害と取っていく傾向があります。

そうなってくるともう、「新型うつ病」とあえて分ける必要が減ってきまして、「適応障害」の中に吸収されたというふうに捉えております。

そのため、以前の「新型うつ病」の治療は適応障害に準じまして、ストレスの対策が主になってくるということがあります。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)