アサーション(認知行動療法の技法)

対人面の適切な自己主張

アサーションは、広くは認知行動療法の技法の1つ。対人面での適切な自己主張の技法です。

 

対人面で我慢がくせになると、ストレスがたまり続け、うつ病・適応障害のリスクになります。

段階的に「主張する」事に慣らします。その際の緊張に一歩踏み込むことが大事です。

 

動画:アサーション(認知行動療法の技法)

もくじ

 
  1. (1)はじめに:アサーション
  2. (2)前提:集団では、主張と我慢のバランスが大事
  3. (3)我慢しすぎるリスク、言いすぎるリスク
  4. (4)対策としてのアサーション(適切な自己主張)
  5. (5)主張しにくい背景と主張への不安・緊張
  6. (6)不安に慣らしながら言う:具体的なコツ
  7. (7)主張することの影響と注意点
  8. (8)主張しすぎが問題になる場面
  9. (9)まとめ
  10.  

(1)はじめに:アサーション

うつ病・適応障害セルフケア。今回は「アサーション(適度な自己主張)」ということについてやっていきます。よろしくお願いします。

うつ病や適応障害の改善、予防のためには、ストレス対策が非常に重要になります。

このストレスの中で、社会人にとって大きな意味を占めるのが対人関係・対人ストレスになってきます。

どうしても組織や集団でやっていくと、人と人とは違う。だからぶつかりが生じることがあります。

その中で我慢しすぎてしまう癖があると、どうしてもそこでストレスがたまってしまい、メンタル不調の原因になってしまうことがあります。

その対策としての「適度な自己主張(アサーション)」について見ていきたいと思います。

(2)前提:集団では、主張と我慢のバランスが大事

まず、前提として見ていきますと、もし一人で生活するという場合であれば、自分のしたいことをすればいいということになってきます。

一方で集団だったり、二人以上と異なってくると、他の人もいる中でやっていくことになります。

そのうえで自分がしたいこともあるんだけども、相手がどうかというところも、やはり見ていかなきゃいけないということがあります。

なので、いろいろなことをやっていく際に、しばしば相手の同意が必要になるということがあります。

そのため、何かやりたいことがあったとき、やりたいと主張することもあるし、これはやめておこうと我慢するということもある。

これはもうバランスよく状況を見てやっていくということが本来求められることになってきます。

(3)我慢しすぎるリスク、言いすぎるリスク

一方で、なかなかそれがうまくいかないということは少なからずあり、人によっては我慢をし過ぎるという人もいますし、人によっては言い過ぎてしまうという人もいます。

<我慢し過ぎた時の影響>

まず状況が不利になってきます。本当は必要な主張もできない状況だと不利になってしまうということがあります。

そして、ストレスがたまってしまって、心身の不調の原因になってしまうということがあります。

また、人によっては我慢を繰り返して自己肯定感が下がり、様々なことへの意欲が落ちてしまいます。

<言い過ぎた時の影響>

一見ストレスは溜まらないんだけれども、相手が嫌な思いをします。

そうすると、どこかでいわゆる「意趣返し」されるリスクというのが出てきます。

その結果、孤立したり、不適応になるという不利益が出てくるリスクがあります。

(4)対策としてのアサーション(適切な自己主張)

では、対策はどうするかというと、我慢し過ぎる・いい過ぎるの中間を取っていくということ。これがいわゆるアサーションの話になってきます。

相手には配慮をしつつも必要なことはしっかり主張するということです。

うつ病・適応障害の場合、多くは我慢をしすぎてしまうということが背景にあります。

その対策としてはいかに必要なことは主張するかということが大事になります。

必要な主張はして、対人的なストレスを溜め過ぎないようにすることで、うつ病や適応障害を防いだり、改善したりするということになります。

(5)主張しにくい背景と主張への不安・緊張

一方で、なかなか主張しにくいという背景人によって幾つかあると思います。

代表的なものを2つ挙げますと、1つ目が性格、もとから主張するというのは得意じゃないという方もいらっしゃると思います。

もう一つが経験。実際に主張して嫌な思いをしたとか、主張するなとずっと教えられてきたとか、そういった方も中にはいらっしゃると思います。

そして多くの場合、必要な主張をすることに強い不安や緊張があるという方が少なくありません。

ただ、それでも「言う」ということは、やはり長い目で見て、非常に大事になってくることがあります。

これは「不安があっても、それでも言う」ということなので、ある種不安に対して慣らす「系統的脱感作」というところに近いところではあります。

(6)不安に慣らしながら言う:具体的なコツ

具体的には、「徐々に慣らす」事がポイントです。

まずは相対的に言いやすい場面からちょっとずつ主張してならしていく。不安はあるけれども、言って何とかなったということを慣らしていきます。

ただやるだけと非常にきついので、リラックスを図りながら慣らしていき、徐々に負担を増やしていただけたらと思います。

その上で、最後はある種の覚悟なのかもしれないです。

やはり言おうとすると、「また何かやり返されるんじゃないか」などの否定的な考えや不安がいろいろ出てきますが、「必要なことは何か」というところで気持ちを強く持つことが最終的には大事です。

その上で繰り返し練習して徐々に慣らしていくということが大事になってきます。

(7)主張することの影響と注意点

その上で、逆に人によっては主張し過ぎてしまうことがあります。この「主張する」ことの注意点というところを今度見ていきます。

この「主張」、必要な時は必要なんですけれども、一方で自分の意思を通す、相手にちょっと引いてもらうということです。

なので、ある種の攻撃性は、どうしても出てくる。「相手から奪う」的な特性というのは、どうしてもある。なので慎重にやっていく必要があるかと思います。

具体的は、まずは必要なことに絞る。必要はないけれど、「何か取れりゃあいいや」みたいなことは避けてもらえたらと思います。

そして「相手のコスト」、こちらが主張することで相手が受ける影響(コスト)に配慮する。あまりにコストが大きければ、ちょっとそこは我慢しておくのが得策です。

そして主張する中で「間違ったらちゃんと引く」どうしても人は間違えることがあります。その場合は「間違ったら引く」。そこは柔軟にやることが大事です。

(8)主張しすぎが問題になる場面

人によっては発達障害の「ADHD」がある方だと衝動的につい言ってしまう事が時に問題になります。これはちょっと慎重に注意するということ。

あとは「自閉スペクトラム障害(ASD)」があると、相手の状況を読みづらくて結果言い過ぎてしまうということがあるかもしれない。これもちょっと一歩引いて冷静に見てもらえるとと思います。

あと「相手がどう思うかにあまり関心がない」場合は、相手に思わぬコストが生じている可能性があるので、ちょっと慎重に注意してもらえたらと思います。

(9)まとめ

今回は適切な自己主張・アサーションということについてみてきました。

どうしても社会・人間関係で我慢をしすぎてしまうと強いストレスがかかりうつ病・適応障害のリスクになるため、適度な自己主張「アサーション」が大事になってきます。

人によっては主張するときに不安・緊張・恐怖というのが出てくる事があります。これは段階的・徐々にですが、ある種気持ちを強く持って徐々に繰り返し慣らして練習していただけると幸いです。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリングでの認知行動療法は行っておらず、外来診察の枠組みの中で、必要に応じて「認知再構成」「系統的脱感作法」等の要素を活用する事があります。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)