認知行動療法の全体像

考え(認知)・行動を調整する

認知行動療法は、考え(認知)・行動を調整することで、感情や体の状態も合わせて調整し、改善を図ります。

 

代表的な方法は「認知再構成」考えのくせに着目し、別の考えを見つけていく事で改善を図る方法論です。

 

他の技法としては「行動活性化」「系統的脱感作法」「問題解決技法」があります。

 

動画:認知行動療法の全体像

もくじ

 
  1. (1)はじめに:認知行動療法の全体像
  2. (2)認知行動療法の意味するところ3つ
  3. (3)補足:共同関係と、カウンセリング流派について
  4. (4)「認知行動療法」のニーズと満たす枠組み
  5. (5)認知行動療法のベースの考え
  6. (6)認知行動療法の技法①認知再構成
  7. (7)認知行動療法の技法②行動活性化
  8. (8)認知行動療法の技法③系統的脱感作法
  9. (9)認知行動療法の技法④問題解決技法
  10. (10)まとめ
  11.  

(1)はじめに:認知行動療法の全体像

うつ病や適応障害の治療をやっていく中で、認知行動療法をやりたいというお話を聞くことがあります。

この話が出たときに、ではこの認知行動療法とはどういう意味を指すのか、よく聞いてみると、人によって案外違う事が多いです。

それにより必要な対応はかなり変わってきますので、この認知行動療法とはどういうもので、どういう技法があるか、全体像をまとめたいと思います。

(2)認知行動療法の意味するところ3つ

まずこの認知行動療法の意味するところは何かですが、大きくまとめるとこの3つになります。

1つ目としては、いわゆるカウンセリングの代わり。

2つ目としては、いわゆる共同関係、一緒に問題解決していきましょうという意味での認知行動療法。

3つ目はいろいろな技法自体。

これはどれを指すかによって、ちょっと対策が変わってくるというところがあります。

(3)補足:共同関係と、カウンセリング流派について

補足ですが、共同関係は、カウンセラーさんと一緒に問題を解決していきましょうという話です。

対照的なのがいわゆるロジャース派、カウンセラーさんは聞き手で、ご本人さんが話して、話す中で、本人が気づいて整理していくという方法です。

これはどっちがいいということではなくて、どちらも一長一短ニーズがありますので、どういうやり方を望むか次第と思われます。

(4)「認知行動療法」のニーズと満たす枠組み

この認知行動療法、意味によって、どこでそのニーズを満たせるかというところが変わってきます。

ニーズの満たし方の選択肢は、自分・心療内科・カウンセリング施設の3つ。

認知行動療法の技法だけで言えば、ご自身でも可能と思います。クリニックでもワンポイントで答えをもらう選択肢があり、カウンセリングでじっくりもあります。

一方で、カウンセリングの代わり、もしくは共同関係・一緒に解決しましょうということになってくると、これはご本人だけでやるのは難しいですし、クリニックでもちょっと難しいところがあります。

この場合は、もうカウンセリング施設でしっかりカウンセリングという枠組みでやっていただけるといいんじゃないかと思います。

(5)認知行動療法のベースの考え

次に、認知行動療法のベースの考えというところを見ていきたいと思います。

色々な技法はありますけども、もとにある考えということを見ていきますと、人はいろいろ考えたり感じたりするんですけれども、大きく言うと4つの要素があるというふうに認知行動療法では見ていきます。

認知・行動・体の感覚・感情、この4つになってきます。

<4つの要素>

認知というのは、物事を受け取ったり考えたりするという話。

行動はまさに動く行動ということ。

身体の感覚というのは、いろいろ身体の感覚ということになります。

感情は悲しいとか嬉しいとか、そういう感情の動き・気分というところにもなってきます。

<要素の相互作用と、認知行動療法での介入>

この4つというのは単独であるというよりは、お互い絡み合っているというところ、影響し合っているというところがあります。

そして、この4つの中で、なかなか感情や身体の感覚というのは直接コントロールしにくいというところがある。

一方で認知(考え方)だったり行動、この2つに関しては。いろいろ調整したり、コントロールしやすいというところがあります。

なので、認知行動療法の一番ベースとしては、調整しやすい認知・行動この2つを整えていくことで、整いにくい感情や気分なども2次的に改善を図り、全体的に改善を図っていくという方法になってきます。

そして、いろいろな技法としては考え・認知を動かしていく技法、行動・行動パターンを動かしていくという技法が、具体的に幾つかあるということになります。

(6)認知行動療法の技法①認知再構成

続きまして、認知行動療法の各技法ということで見ていきたいと思います。今回は、いわゆる代表的な技法を4つ扱っていきます。

1つ目としては、いわゆる認知再構成というのがあります。

考え方を調整する、認知にアプローチするやり方。いわゆる認知行動療法というと、この方法を指すことが多いです。

よくある例えとして、コップに水が半分入っているという話があります。「コップに半分水が入っていること」をどう捉えるかで、その後の感情が違いますよという話。

例えば半分しかないと捉えるとあまりいい気もしない一方で、半分もあると捉えるとむしろ嬉しくなったりするというふうに、捉え方によって変わってくることがあります。

そこを調整するのが、この認知再構成になってきます。ステップとしては2段階あります。

<段階1:自分の考えのくせを知る>

この感情が動く中で段階プロセスがありまして、まず出来事があって、それをどう考えるかどう捉えるかがあって、最後感情が動くということがあります。

例えば、自分をじろじろ見る人がいたという時に、人によってはけんかを売られたと思って怒りが出る人もいます。

一方で、自分が何かしたんじゃないかと、また自分が悪いんじゃないかと思うと不安だったり落ち込みが出ると。

同じジロジロ見る人がいるということでも捉え方考え方によって結構違う感情が出てきたりするということがあります。

この捉え方、考え方のくせというのは、結構人によって個人差が大きいです。そして、それによってどう出来事を捉えるか、環境や世界を捉えるかというところに大きな違いが出てくるということになります。

【練習:感情が動いた時に浮かんだ考えは?】

ここで一つ練習としては、何か大きな感情が動いた時に、どういう考えが頭を浮かんだかというところを見てもらえるといいと思います。

そうすると出来事をどう捉えるか、「出来事→考え→感情」の流れが見えてきます。

これを繰り返すと、自分がどういう風に出来事を捉えてどう感情が動いているか、というパターンが見えてきます。

人によってそれぞれ異なるパターンがあり、それに対し修正することが大事です。

これで多くの場合はバランスが戻ってきますが、それでも癖が強く残る場合は、もう一歩踏み込んでやる必要が出てきます。

<段階2:意識的に別の視点で見る>

「無意識にあったくせを意識的に見て、自分でちょっと調整しましょう。」それでうまくいく場合も多いんですけれども、うまくいかない場合は意識的にやっていく必要があります。

やり方としては、代表的には3つあると言われます。

1つ目はある種理詰めでやっていく、そう考えた根拠とそうじゃない根拠両方を挙げていって、じゃあバランスを取れた見方・考え方はどうかということをやっていくという方法です。

2つ目としては、他の人はどう考えるか。あと、逆に他の人に相談されたらどう考えるかと、そういう意味で視点を変えてのやり方です。

もう1個は、より一歩引いて全体的に見たらどうかというやり方。いわゆるメタ認知的な考えというやり方をとる場合があります。

(7)認知行動療法の技法②行動活性化

技法の2つ目としては、行動活性化というのがあります。これは行動というところに注目していく。

具体的には、まず日々の行動ということを振り返って、その中で効果はどうかというのを見ていきます。で、あまり効果がない行動があれば、それをより効果のあることに置き換えていって、この質を上げていきましょうということになります。

望まれる方法は人によって違いますけど、例としては例えば運動、長い目で見て効果が上がってくるという方法。

あとは遊ぶというのも一つ方法かもしれません。しっかり遊ぶことに集中して、楽しみをしっかり取っていくというのも一つの方法になってきます。

いい行動を選んでいく基準としては大きく言うと2つあると言われています。楽しさと達成感、この2つどっちかがある行動。その中で、あまり負担がかかりすぎない方法を増やします。

(8)認知行動療法の技法③系統的脱感作法

3つ目としては、系統的脱感作法というのがあります。

これも行動に注目する方法ですけれども、行動、不安にならすという行動を取ることによって、徐々に不安を減らしていくという方法になります。

大まかに言うと、はじめは弱めの不安から回避せず徐々に慣らしていって、慣れてきたらだんだん負荷を上げていって、不安を克服していきましょうという方法です。

これは不安症一般、パニック症その他にも使えるんですけれども、一方で「うつや適応障害に伴う不安」に対しても効果がありますので、治療の一環で使っていくことはあるかと思います。

(9)認知行動療法の技法④問題解決技法

4つ目としては、問題解決技法というのがあります。

これは厳密には認知(考え)や行動ではないんですけれども、背景にストレスや問題が大きい時に、それによって考えや行動が強く影響されてしまうことがあります。

その場合は、認知・行動のアプローチという前に、まずこのストレスを減らしましょうということで問題を解決しましょうということをやっていくことあります。

よく具体的にやるのが、問題を具体的に分けていって、解決できることはもう分けて解決する。解決できないことはさらに分けていって、どうしても解決が難しいことは受け入れていく。

そういう風に、分けて、仕分けて対処していきましょうという方法になります。

(10)まとめ

今回は、認知行動療法の全体像ということで見ていきました。

まず、認知行動療法の意味するところは結構人によって違うので、そこを整理していくと、どういうふうに取り組む(べき)か見えてきます。

認知行動療法としては、考えや行動、比較的動かしやすいところにアプローチすることで、動かしにくい気分や身体の感覚も整えていきましょうという方法になります。

具体的には、認知再構成・行動活性化・問題解決技法・脱感作法といった方法があります。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリングでの認知行動療法は行っておらず、外来診察の枠組みの中で、必要に応じて「認知再構成」「系統的脱感作法」等の要素を活用する事があります。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)