系統的脱感作法(認知行動療法の技法)

不安を回避せず徐々に慣らす

系統的脱感作法は、認知行動療法の技法の1つ。不安を回避せず徐々に慣らす技法です。

 

不安な場面に対し、回避せず徐々に慣らし、慣れたら徐々に負荷を増やし、段階的に克服を図ります。

不安一般に有効ですが、特にパニック障害・社会不安障害などで良く用いられます。

 

動画:系統的脱感作法(認知行動療法の技法)

もくじ

 
  1. (1)はじめに:系統的脱感作法
  2. (2)系統的脱感作法とは
  3. (3)系統的脱感作法のポイント2つ
  4. (4)系統的脱感作法の注意点3つ
  5. (5)系統的脱感作法の応用例3つ
  6. (6)まとめ
  7.  

(1)はじめに:系統的脱感作法

今回は「系統的脱感作法」について見ていきたいと思います。よろしくお願いします。

よく、パニック障害や不安障害といった不安の治療において、よく脱感作法・系統的脱感作法をやっていきましょうということをお話しします。

少しずつ不安に慣らしていきましょうという話をしていきます。これがいわゆる脱感作法でありまして、不安を徐々にでも克服していくためには、非常に大事な話になってきます。応用範囲も広い話になっていきます。

この話は、いろいろな場面に出てくるんですけれども、今回、ひと通りまとめてお話をしていきたいというふうに思います。

(2)系統的脱感作法とは

<系統的脱感作法とは>

この系統的脱感作法、意味を考えると、系統的というのは、系統立って徐々にやっていきましょうという話で、脱感作法というのは脱感作ならしていくということです。まとめると「徐々に慣らしていきましょう」というものです。

定義としては、1950年代に精神科医のウォルピという方が開発した行動療法の一つになります。

不安というものに対して徐々に慣らしていきましょうと、具体的に言うとリラックスを図りながらも段階的にはじめは弱目のものから徐々に強く慣らしていきましょうという方法になってきます。

<回避しないことが、長い面ではいい方向に>

この不安なんですけれども、ともすると「回避」と言って不安な場面を避けてしまうという方法をとること、実際に日常生活だとあるかと思います。

電車が強い不安だったら、電車を避けるといったように。これは短期的には不安に直面しなくていいんですけれども、ただ、その場面が来るとやはり強い不安になってしまう状況で、克服はできないということになります。

なので長い目で見ると、そういう克服できるものに対しては、むしろ回避せずに徐々にでも慣らして克服していく方がいい、というのがこの方法になってきます。

似た言葉としては、よく曝露療法・曝露法という言葉があります。ほぼ同じ意味です。あと、英語でいうエクスポージャー法という言い方をすることがありますけれども、これもほぼ同じ意味です。

<系統的脱感作法と似たもの2つ>

これから脱感作法・系統的脱感作法のやり方・ポイントと注意点を見ていきますけれども、似てるものとして2つ挙げておきます。参考にしたら聞いていただけたらと思います。

1つ目は体のトレーニング。よくウエートトレーニングとかあったりしますけれども、徐々に負荷を増やしていきましょうというところ、非常に似たところがあります。

あと、ロールプレイングゲーム、徐々に何か戦ってレベルを上げていくロールプレイングゲームとかありますけど、あれも少し似たところがあったりします。

その辺もちょっと参考にしながら聞いてみていただけたらというふうに思います。

(3)系統的脱感作法のポイント2つ

<ポイント1:程よい強さで>

先ほどのトレーニングの話をしますと、これは負荷が弱すぎると全然トレーニングにならないんですね。一方で強すぎるともうトレーニングにならなかったり、本当に怪我してしまったりします。

これはロールプレイングゲームに例えると、弱すぎると経験値が溜まらない。ただ強すぎると勝てませんので、それでゲームが終わってしまうということがあります。なので弱すぎず強すぎず、適量をしっかり取っていくということがあります。

これは系統的脱感作法でも、同じように大事になってきます。

具体的にいうと不安を感じる。だけどもそれが強すぎず、発作や混乱にまでは至ることはなくて、かつならしていくと一定時間すると慣れてくると、そういった中の程よい強さのもので慣らしていきましょうということが1つ目のポイントになってきます。

<ポイント2:徐々に強めていく>

先程のトレーニングで行くと、何回かやっていて慣れてきたらだんだん軽く感じるので、じゃあ負荷をどんどんちょっとずつ増やしていきましょうということになります。

ロールプレイングゲームでいくと、だんだんレベルが上がってくると、同じ相手が同じ敵も弱くなりますので、強いところにやっていきましょうということだったりします。

これは脱感作法でも同じことになりまして、一気に強い刺激に持っていくんじゃなくて、繰り返し慣らして慣れてくると、だんだん同じ不安な刺激が弱く感じられますので、そうしたらちょっとずつ刺激を増やしていきましょうと、そういうやり方を取っていきます。

例えば、電車にならしていくという例が一番分かりやすいと思います。

はじめはもう1駅2分間ぐらいでやっていて、それをじゃあ、次は2駅で、最後は4駅8駅とだんだん広げていくというやり方を取っていきます。

電車の(種類の)例で行くと、後は各駅停車から始めて、じゃあ快速にして最後急行に持っていきましょう。

混んでいる電車が苦手であれば、はじめは凄く空いている電車から始めて、ぎりぎり座れるぐらいに持っていって、最後は満員電車に持っていく。

そういったやり方を取っていくかというふうに思います。

(4)系統的脱感作法の注意点3つ

続きまして、今度は系統的脱感作法の注意点というところを3つ見ていきたいと思います。

①体調のいい時にする

例えば、トレーニングでも調子悪い時にやると怪我してしまいます。RPGでいきますとヒットポイントが低い時にすると、普通勝てる相手に負けたりします。

そういう風に、不調な時にやってしまうと、予想外の発作や混乱になってしまうリスクが生まれますので、不調な時はもう無理はしないであまりやらないでください。

調子のいい時に練習をする、脱感作を練習をするということを知っていただけたらと思います。

②リラックスをしながら慣らしていく

例えば、トレーニングでいきなり重いものを持ちますと、これは怪我してしまいますから、準備体操をしたりします。

そういう風に準備をしてやっていくのが系統的脱感作法でも大事です。

緊張したままだと、やはり発作のリスクは上がってしまいますので、リラックスを図りながらやっていく。

そうすると発作のリスクも減りますし、緊張が和らいでいる方がうまくスムーズに慣れていくということになってきます。

③終わってからしっかり休養

トレーニング後は疲れているのでしっかり休みましょうという話。ロールプレイングゲームでも戦ったらいろいろヒットポイント減ったりしてますので、宿屋でしっかり休みましょうみたいな話があります。

これは脱感作もそうでして、やっぱり慣らすということ、周りからはあまり見えなくても、ご自身の中ではかなりエネルギーを使う方法です。

終わった後は無意識でも非常に疲れがたまっていますので、そこはもう無理してしまうと発作が起こってしまいますので、しっかり慣らしたら、その後しっかり休んでコンディションを整えて、また慣らすと。

慣らすことと休養してコンディションを整えることをセットでやってくださいということになります。

(5)系統的脱感作法の応用例3つ

この系統的脱感作法は不安一般で使うことは可能ですけれども、応用例として3つ見ていきたいと思います。

①パニック症

一番これが有名です。強い不安が起こる場面、電車の苦手な方だと電車などに関して、いきなり強い負担のところじゃなくて、まずは軽めから徐々に慣らしていって克服していく。

その結果、パニック症があるとどうしても回避して行動範囲が狭まってしまいますけど、それを徐々に戻していくということをしていきます。

②社会不安障害

人間関係・対人関係での不安に関してもこれを使っていきます。

強い不安がある場面。この場合は、人と会ったりする・人前で話したりする場面になりますので、その中でまだこれなら何とかできるというところから慣らしていきまして、だんだん苦手な場面も慣らしていくということをやっていきます。

③強迫性障害

確認をしてしまったり、強迫観念・ばかげていると分かっていても、つい気になってしまうということがあって確認をしてしまいます。

この確認ということに関して、一種の「回避」になっていることを踏まえ、「あえて確認はしないで不安に慣らしていく」ということをやっていきます。この時の脱感作法は「暴露反応妨害法」という言い方をします。

(6)まとめ

今回系統的脱感作法ということについて見てきました。

この脱感作法ですけれども、不安に対して徐々に慣らすことで不安の改善を図るという方法になります。

具体的にはほどよい強さで徐々に慣らしていく、だんだん強めていくということ。

で、注意点としては、体調のいい時になるべくリラックスを図りながらやって、終わったらしっかり休むということが大事になります。

不安全般に有効ですけれども、特にパニック症・社会不安障害・強迫性障害に対して使うことが多くあります。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリングでの認知行動療法は行っておらず、外来診察の枠組みの中で、必要に応じて「認知再構成」「系統的脱感作法」等の要素を活用する事があります。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)