行動活性化(認知行動療法の技法)
行動の改善から意欲等を改善
行動活性化は、認知行動療法の技法の1つ。行動を増やす事から意欲等の改善を図る技法です。
まずは、「意欲が出るまで待つ」事はせず、まず動くことを通じ、意欲の改善を図ります。
そのうえで、「楽しさ」「達成感」の点から、行動の質を挙げて、さらに改善を図ります。
もくじ
(1)はじめに:行動活性化
うつ病・適応障害セルフケア。今回は「行動活性化」についてやっていきます。よろしくお願いします。
うつ病・適応障害でやる気が出ない、意欲が出ない。そういったご質問を受けることが多くあります。
例えば、抗うつ薬で治療したり、休職・休養して治療したり、そういうことで落ち込みや不安が改善することは非常に多いんですけれども、その中でなかなかやる気が出ない、意欲が出ないという症状が残ることがあります。
この場合、動くことを刺激にして意欲を出す、薬以外のアプローチとして行動を増やすことで意欲を出すということが一つ有効な方法とされます。
その方法としての行動活性化、これについて今回みていきたいというふうに思います。
(2)認知行動療法の理論背景と、行動活性化
まず、この行動活性化と認知行動療法というところで見ていきたいと思います。
行動活性化は、認知行動療法の中の一つの方法になります。
認知行動療法シンプルにまとめますと、人の脳の機能は大きく言うと、認知行動療法では4つに分けます。
認知・行動・体の感覚・感情、そしてこの4要素が絡み合って、いろいろな動きが出ているということがあります。
この4つの中で、なかなか感情や体の感覚は動かしにくいところがありますので、自覚的に動かしやすい認知、行動。この2つを調整することによって、全体的な調子を上げていきましょうというのが認知行動療法になります。
その中で、行動活性化は行動の方を調整して、意欲・やる気などの改善を図っていく方法になります。
では、この行動活性化で何をやるかというと、大きく言うと2つです。1つ目は活動を増やす。2つ目は活動の質を上げるになります。
(3)方法①活動を増やす
1つ目の活動を増やすというところを見ていきます。
<ポイント1:動く>
いい流れとしては動く、動くと刺激があって意欲が出て、意欲が出るとまた動く。こういう好循環の状態になってくると自然と良くなってきますので、これを目指していきたい。
ただ、だいたいはじめの一歩でつまずくことが多いんですね。動こうにもなかなか意欲は出ない。動きたいとは分かっているけれども一歩を踏み出せない。こういった御相談を受けることがあります。
では、この時にどうすればいいかというと、時にもうやる気が出るまで待ったらいいみたいな話を聞くこともありますが、これはあまりお勧めはできないです。
なぜならば待ってしまいますと、刺激がない状態、意欲が出なくて刺激がない状態が続きますので、結果あまり意欲が出ない状態が長く続いてしまう可能性が高い。
ではどうするかというと、ある程度落ち込みなどが良くなった前提ですけれども、まずは動いて、動いた刺激によって意欲の改善を図っていく。
はじめはある種のリハビリとして動いていって、流れができてきたら自然に動いていく。こういった方法をお勧めします。
<ポイント2:徐々に行動を増やしていく>
これは一気にやり過ぎると反動が出る。これは体のトレーニングでも同じですし、認知行動療法の中でも脱感作法、徐々に慣らしていくという方法とも似ています。
一気にやると反動が来ますので、徐々に慣らしてだんだん負荷を増やしていく。この方法だと、だんだん活動を増やしていくということを知っていただけたらと思います。
そして、活動した後は疲れますので、活動したらしっかり休む。またしっかり休めたらまた活動する。このサイクルを繰り返すことによって、だんだん活動量を増やしていくということをしていただけたらと思います。
(4)方法②活動の質を上げる
2つ目としては、活動の質を上げるということになります
<活動の質(機能)はどうか?>
先ほど活動を増やすということをまずしてきたんですけれども、ここで一つ質問がありまして、そのやっている活動はしっかり機能していますかということがあります。
例えばですけれども、運動をしたとした時、動くことで体が刺激を受けて改善するということはあるかもしれない。
一方で、例えばテレビを見ているとこれ面白い物だったらいいんですけど、何だかあまり面白くないけど、何となく見ているということだと行動はしてるんだけども。別にそれで何も改善には繋がっていなかったりして、時間だけが経ってしまう。そういったことがあります。
こういうふうに活動の質というのはそれぞれあるので、なるべく活動の質を上げていきたいということがあります。
<いい活動の3つの基準>
ここでいい活動、いい行動の3つの基準というのを見ていきます。楽しさ・達成感・コスト、この3つになります。
何か楽しめることであれば、それが意欲につながるということがあると。達成感もこれも同様です。ただ、本調子じゃない時は、なかなか達成感のあるものは負荷が大きすぎる場合もあります。
もう一つはコスト。それは時間という意味でもあるし、費用、あとどれぐらい疲れるかということも含まれるかと思います。
例えばですけれども、海外旅行に行ったら楽しさも達成感もあるでしょうけど、費用とか疲れという面で見たらどうか。そういうふうにバランスを取ってもらえたらという風に思います。
そういった3つの視点から見て、日々の行動を見直していって、いい活動をふやしていく。それによってもう1段階状態の改善を図っていきたいという方法です。
<具体的に活動の質を上げる4段階>
じゃあこれを具体的にどうやるかというのを今度見ていきたいと思います。4段階に分けて見ていきます。
1段階目としては、まずは代わりに行う行動の候補を作っておくといいと思います。
もし置き換えるならこれをやろうということをいくつか案を出していって、それを先の3つの観点、楽しさ・達成感・コスト、この3つからやってバランスのいいものを選んでおくということをしていきます。
その上で、日々の活動をさっきの3基準で振り返ってみると、その中で見ていくと比較的楽しさがある活動もありますし、あまりないものもあると思います。
そうしたら、3段階目です。その中であまり機能していない行動を選び出しまして、最後4段階目、1番の段階で見つけました、「置き換える行動」に置き換えていくということをしていきます。
これを一個一個やっていって、だんだん行動の質を上げていく。それによって状態を改善していくということをしていきます。
(5)まとめ
今回は行動活性化、うつ病・適応障害セルフケアの中で行動活性化について見てきました。
うつ病・適応障害、特に意欲の改善にとっては、行動を、活動を調整する行動活性化が有効とされます。
まずは活動を増やす。意欲が出るまで待つというよりは、まず動いていく。動く流れができたら、徐々に活動を増やしていきます。
その上で、次に活動の質を上げていきます。日々の活動を楽しさ・達成感・コスト、この3つの点から振り返っていきまして、あまり機能しないものだったら、よりそれを機能するものに置き換えていくということを繰り返していただけたらと思います。
ご注意
当院では、長時間のカウンセリングでの認知行動療法は行っておらず、外来診察の枠組みの中で、必要に応じて「認知再構成」「系統的脱感作法」等の要素を活用する事があります。
記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)