認知再構成(認知行動療法の技法)

自分の考えのくせを見て調整

認知再構成は、認知行動療法の代表的な技法。感情が動く出来事で浮かぶ「考え」を調整する技法です。

 

まずは繰り返し「考えのくせ」を見て調整。それだけでは困難な時に、視点を変えるなどより専門的な方法を取ります。

 

これは技術なので、細かく完全主義になりすぎず、大まかでもいいので反復練習することが大事です。

 

動画:認知再構成(認知行動療法の技法)

もくじ

 
  1. (1)はじめに:認知再構成
  2. (2)認知行動療法の概念と、その中での認知再構成
  3. (3)段階1:自分の考えの癖を知る
  4. (4)段階2:意識的に別の視点を取る
  5. (5)認知再構成の実践のコツ2つ
  6. (6)認知再構成、限界のある場面3つ
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに:認知再構成

今回は、認知行動療法・認知再構成について見ていきたいと思います。よろしくお願いします。

認知行動療法にはいろいろな技法はあるんですけれども、まず代表的なこれが認知行動療法といってよく挙げられるのがこの認知再構成という方法です。

「考え方のくせ」を直すとか、「別の見方で見る」みたいなそういったことがよく日常でも言われたりします。

うつ病や適応障害の方だと、どうしても自分を責めるという考えの癖が出てしまいやすい。それによってうつが長期化したり悪化したりしやすいということがありまして、この方法が有効なことが多いです。

なので今回、この認知再構成ということについて話をしていきたいと思います。

(2)認知行動療法の概念と、その中での認知再構成

まず、認知行動療法の背景の話ですけれども、認知行動療法では認知・行動・体の感覚・感情。この4つを要素として分けて、人の脳の動きというのを見ていきます。

ここに関して、この4つの要素は色々絡み合っているというのが一つ。

そして身体の感覚や感情というのは、なかなか意識的には変えにくい。だからこそ、変えやすい認知(考え方)や行動、そこを動かすことをやっていくのが認知行動療法です。

調整をしやすい認知・行動を調整することで、気分全体の改善を図っていく。特にこの認知再構成では、その中でも認知・考え方もしくは捉え方を調整して他の状態を改善していくということになります。

これの認知再構成、大きくいうと2つの段階でやっていきます。1段階目は、自分の考え方の癖を知る。2つ目は意識的に別の見方を別の考え方をするということになります。

(3)段階1:自分の考えの癖を知る

では、これを段階的に見ていきたいと思います。段階1としては、自分の考える癖を知るということです。

<コップの水の話>

よくある話として、コップの水の話があります。半分水が入ったとして、これを半分しかないと捉えるか半分もあると捉えるか、それによって感じ方が変わってくるという話になります。

物事を見方によって同じことだ出来事があっても、気分が変わってくるという話になります。

<出来事→認知→気分の3段階の流れ>

ここでよく、その考え方から気分に至る流れとして3段階あげています。出来事・認知・気分この3段階で流れていくというのを見ていきます。

さっきのコップの例でいくと、出来事が半分の水があるって半分もあると考えると嬉しくなる。一方で半分しかないと考えると、何か悲しくなってくる。こういった考え方で変わってきますよということがあります。

この考えの癖は、個人差が非常に大きいというところがあって、同じ出来事は繰り返されても、どういう風にそれを捉えるかで気分も変わってくるし、状態も変わってくるということがあります。

<うつでの考えのくせ>

そして、うつの状態で多いのが自分を責めてしまうという考えのパターン(くせ)になります。必ずしも関係ないことがあって、自分が悪いなと自分が駄目だからと思ってしまう。そして落ち込みが出る。

これが繰り返されると、それによって落ち込みますから、どうしてもうつが長引いてしまったり、悪化してしまう原因になる。

これは何とかしたいということがあります。

<練習:感情が動いた場面で「何を考えたか」見る>

では、この練習をどうするかというと、自分の感情が動いた出来事場面でどう考えていたか、どのように捉えたかということを繰り返し見ていくというのが一番大事な練習になります。

そうすると、あなたにとっての出来事・考え・気分(感情)この流れが、多く取っていくと見えてきます。

そうするとバランスを取れていることもありますけど、時としてちょっとくせがあることがあります。くせがないかを見ていくということになります。

もしくせがあれば、ちょっとバランスを取っていきましょうということになります。

例えば、鏡を見てちょっと髪型を乱れていたら修正するように、ちょっと考えに癖があったらちょっとここは修正しましょう。そういう風にして修正していくということです。

これは結構繰り返すと癖が分かって、ちょっと癖があるから調整しましょうということで解決することはかなり多いと思っております。

ただし、どうしても癖が根強い・根深い時はなかなかこれだけでは難しい場合があるので、その時だけステップ2に入っていきます。

(4)段階2:意識的に別の視点を取る

このステップ2について見ていきます。意識的に別の視点を見るということです。

どうしても癖を見て修正を図るだけでは難しい時には、もう意識的に視点を変える、意識的に別の見方を取るという必要があります。

方法としては大きく言うと今回3つ挙げます。1つ目は理詰めで考える、根拠と逆の根拠を見るという方法。2つ目はあの人ならどうする、人による視点を変えるという方法、3つ目は一歩引いてみる。いわゆるメタ認知的な考えになります。

①根拠と逆の根拠を見る

まずは根拠と逆の根拠を見るということですけれども、その癖になっている考えのそれは正しいという根拠とそうじゃないという両方を見て、その上でちょっと別の考えを探していきます。

例を挙げていきます。隣の人は不機嫌にしている時に、自分が悪いことをしたんじゃないかと思って悲しく罪悪感が出るという場合。

この時に根拠としては例えばですけれども、前にもちょっと嫌なことをしてしまって、不機嫌になることがあったという経験があったので、今回もそうじゃないかというのがあるかもしれない。

ただ、逆に逆の根拠としては別に、今回はそのときとは違うということ、今回特に何もしていないと。後はその人は別の原因で悩んでいる可能性もある。

ここを捉えると、確かに自分が悪い可能性0じゃないけれども、他の可能性も十分にあり得る。そうしたら余り悲しさが減ってくるということになります。

②あの人ならどうするか(視点切り替え)

2つ目のやり方としては、あの人ならどうするかということです。自分の視点で見る癖がついたとしたら、意識的に視点を変えていくということ。

例えばですけれども、先ほどの隣の人は不機嫌にして、自分は悪いことをしたからしょうがないと思った時、そういう質問を部下から受けたらどう答えますか?

そうすると、案外いや、それは別に関係ないんじゃないのと言ったりすることもあります。視点を変えると、案外自然な答えが出てきたりするということです。

他の例としては、もし他の人はあの人だったらどう考えるか人によって視点が変わってきます。あとは自分自身で見るならば、体調がいい時どうかというところで見てもらえたらと思います。

③一歩引いて見る(メタ認知)

3つ目としては、一歩引いてみるということです。

さっきの視点切り替えの延長ですけれども、一歩引いて全体像で見てみたらどうか。これよくメタ認知と言い方もしますけど、ちょっと自分を俯瞰で見てみるということにしてみます。

具体的に見ていくと、先ほどの場面で見ていくと、隣の人は不機嫌にしていて、ご自身がいて一歩引いて見てみます。

すると特に隣にいるご自身は何もしていないんだけれども、相手がイライラしてると。これはあんまり関係ないだろうというのがちょっと一歩引いてみると見えてきます。

(5)認知再構成の実践のコツ2つ

この認知再構成、実践のコツというと、大きく言うと2つだと思っています。

①完全主義になり過ぎない

どうしても厳密にどう考えてたかとか、あと感情がどのぐらい動いたかを厳密に書いてしまったりすると、確かに正確ではあるんですけど、非常に疲れます。

そうすると何か疲れるからやめてしまうとなってしまうと、なかなか定着しないということがありますので、あまり完全主義になり過ぎないことをおすすめします。

②繰り返しやっていく

逆に少しアバウトでもいいので、繰り返し自分のどう考えたかを見ていく。そういうふうにしていくと、定着しやすいんじゃないかと考えております。

(6)認知再構成、限界のある場面3つ

一方、この方法は時として限界があるときがあります。3つ例を挙げます。

①うつ病(特に急性期)

これはもう症状として自分を否定してしまうといううつ症状が出ることがあります。

この時はなかなか認知再構成では難しいので、もうこれはうつの治療抗うつ薬を使ってしっかり休養するなどうつ病の治療することをおすすめします。

②こだわり(ASD傾向由来)

子供の頃から一つの視点にこだわってしまう。なかなか切り替えが難しいということがあった場合は、なかなかスムーズに行いにくいかもしれない。

軽い場合、いわゆるグレーの時であれば、それでもなお繰り返し練習して徐々に身につけてほしい。

一方で、ちょっと重い、診断が強くつくような場合だったら、そこは無理をしないで、必要なサポートを受けることをおすすめします。

③深い考えの癖があった時

幼少期の体験などでどうしても自分を否定してしまうくせがついてしまった場合、深い考えのくせがつくことがあります。

この時は、なかなかすぐには難しいことがある。どういう治療がいいかというのは意見は分かれますけれども、私としては今と少し後、徐々にうまくいった経験を繰り返していって、消せないけれども、徐々に考える癖を薄めていくというやり方がいいんじゃないかと思っています。

(7)まとめ

今回は認知再構成ということを見てきました。

これは認知行動療法の中でも考え、認知を調整することによって状態を戻していくという方法です。

具体的には、自分の考えの癖を見るというところ、その上で必要がある時だけ、意識的に別の考えを取るという方法でした。

コツとしては完全主義になりすぎない。その上で、ラフでもいいから繰り返しやって定着させていくということが大事だと考えています。

ご注意

当院では、長時間のカウンセリングでの認知行動療法は行っておらず、外来診察の枠組みの中で、必要に応じて「認知再構成」「系統的脱感作法」等の要素を活用する事があります。

記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)