適応障害と休職・退職・転職

働く人の環境調整の実際

適応障害ではストレス状況の対策「環境調整」が大事ですが、働く人では休職・退職・転職が選択肢です。

 

それぞれ一長一短あるため、その状況・症状・環境等を踏まえ、その場面ごとに、総合的に判断します。

 

環境を変えても適応障害が反復する場合は、ストレス対策の見直しや発達障害の可能性などを検討します。

 

動画:適応障害と休職・退職・転職

もくじ

 
  1. (1)はじめに「適応障害と休職・退職・転職」
  2. (2)適応障害、休職、退職、転職についてのまとめ
  3. (3)実際の場面①仕事はできるがストレスが続く時
  4. (4)実際の場面②仕事に行けない時
  5. (5)実際の場面③休職して改善後
  6. (6)実際の場面④休職と退職を繰り返す時
  7. (7)まとめ
  8.  

(1)はじめに「適応障害と休職・退職・転職」

今回は「適応障害と休職・退職・転職」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

適応障害の治療でストレスの対策、その中でも環境調整は大きな割合を占めます。

その中で仕事をしている方にとっては、環境調整といえば、具体的には休職・退職・転職、この3つが候補として出てきます。

実際、これをどうするかなのですが、実際にこれらは一長一短あり、状況などから総合的に検討が必要です。

今回は、「適応障害と休職・退職・転職」についてやっていきたいと思います。

(2)適応障害、休職、退職、転職についてのまとめ

<適応障害とは>

適応障害とは、ストレスに反応してうつ症状などの症状が出る心の不調です。

うつ病と比べると、脳の不調の要素は少なく、よりストレスへの反応の要素が強い。

そのため、治療としてはストレスへの対策が一番大事。その中でも、特定のストレスがあれば、環境調整が大事になります。

その中で働く方の環境調整というと、休職・退職・転職、この3つになってきます。

①休職

仕事を1から3カ月休んで休養とリハビリをします。

制度的には「傷病手当金制度」で給料の6割程度が戻ることが(社会保険加入時)見込めます。

うつ病と比べると改善自体は早い一方、「復帰後のストレスをどうするか」、未対策だと再燃のリスクがあり注意です。

②退職

仕事を辞めることでストレスを減らして改善を図っていきます。

この場合、すぐ転職する場合もあれば、しばらく療養するということもあります。

次の仕事が決まっていない場合だと、しばらく無職の状態が続きます。

③転職

これは会社を変える事で仕事の環境を変え、ストレスを減らして改善を図る方法です。

前職との間のストレスが大きい場合は改善が期待できる一方で、条件面及び新しい環境に慣れるストレスが課題です。

<実際どうするか?>

休職・退職・転職とも一長一短ありますが、実際の場面でどうするかをこれから見ていきます。

具体的には、まず1つ目は「仕事には行けるけれどもストレスが続く時」、2つ目としては「仕事に行けない時」、3つ目としては「休職をして改善した後」、最後4つ目は「退職・転職を繰り返してしまった時」、になります。

(3)実際の場面①仕事はできるがストレスが続く時

まず1つ目仕事はできるがストレスが続く時という状態です。

これは仕事自体は何とか続けるがストレスを自覚して、症状としてうつ症状や、不眠や頭痛など体の症状(自律神経症状)などが出てくる、いわゆる「適応障害」の状態です。

この時、何か環境調整を考えると、転職をするかどうかが一番ポイントになってきます。

<転職のメリット・デメリット>

今の環境からのストレスがなくなるため、そのストレスが多い場合は改善する可能性が見込めます。

一方で転職した場合、待遇面は現実的には今の職場と比べると下がることが多い。少なくとも勤続年数は下がります。

そして、新しい環境に慣れるというストレスがかかる面があります。

<転職以外の対策>

まず1つ目はある種割り切っていくこと。ストレスはあるけれども、割り切って影響を少しでも減らす方法論です。

2つ目としては上司・人事課等に相談し、仕事の環境調整を考える方法。

3つ目としては日頃のストレスの対策を取り、「ストレスはあるけれども発散できる」状態を目指すことです。

<実際どうするか?>

まず短期的には「現状の割り切りの模索」、あとは相談やストレスの対策など「仕事続けつつできること」をまずしていきます。

その上で転職のメリット・デメリット両方あるなかで、双方について現状からそれぞれの重みを推測します。

この2つを合わせた上で、転職すべきかどうかを検討します。その中で転職がやはりいいと思ったら、転職活動を進めていきます。

(4)実際の場面②仕事に行けない時

2つ目としては「仕事に行けない時」。仕事に行こうとすると、吐き気が出るなどがあって、仕事に行けない時です。

この場合は、現実的な話として仕事を続けるのは難しいので、休職をするか退職をするか、これが問題になってきます。

ここに関しては、基本的にはまず休職ということを勧めることが多いです。

<休職を勧める理由>

まず不調な時、うつ状態の時は判断力が本調子でなく、「退職の有無」という重大なことはできれば遅らせたいことがあります。

そして休職のときは傷病手当が出る、退職だとそれは出ないことがあります。

また、不調時にすぐ転職をした場合は、環境変化のストレスがかかってさらに調子を崩すリスクが高いです。

これらを考えると、まず休職ということをお勧めするということがあります。

<例外:退職検討の場合>

例外の1つ目としては、例えば傷病手当がない雇用形態であったり、傷病手当がもう全て1年半以上使ってしまっていた場合があります。

2つ目として「以前勤務歴ある所で信頼できる転職先がある時」この場合は、変化のリスクが減るため退職・転職も選択肢です。

3つ目としては職場と距離を取るとすぐ元気になる「うつ病的な要素が非常に少ない場合」。

こういった例外はあり得ますが、基本的にはまず休職をお勧めすることが多いです。

(5)実際の場面③休職して改善後

3つ目としては「休職をして改善した後」です。

休職においては、まず休養してその後リハビリをしますが、うつ病と比べて適応障害では脳の不調の要素が少ないため、「休養」と「体を動かすリハビリ」に関しては比較的早く改善しやすいです。

ただし、改善した後の「転職をするか、同じ職場に復帰するか」が大きなポイントになります。

選択肢としては3つあり、1つ目は異動しないで復職する。2つ目は異動して復職する、3つ目は転職するということがあります。それぞれ一長一短があります。

①異動をせず復職

これはまず慣れた職場なので、変化のストレスは少ない。ただ、一方で休職する前と同じようなストレスがかかる可能性が高い。

そのため、同じ状態で何も準備しないで復帰すると負担から再燃のリスクがあります。

対策としては、ストレスの対処方法を見直したり、あと異動せずとも環境を微調整するなどが必要になると思われます。

②異動して復職

異動して復職すると、休職前のストレスというところから離れることができますが、一方で新しい環境に慣れるストレスがかかります。

また、会社によっては異動しての復職ができない場合があります。

③転職

転職はある種「別の会社に復職する」という意味です。

なので前のストレスはなくなり心機一転できるのがメリット。

ただ異動する場合以上に変化は大きくあるため、そのストレスには注意が必要です。

<実際どうするか?>

まず一番大事なのが会社に復職の条件を聞くということです。異動が「できる状態かできない状態か」、それによって目標は変わってきます。

その上で3つの選択肢のメリット・デメリット双方と「ご自身のご要望」、これらを総合して検討し、ご自身で一番納得いく選択肢を選んでいきます。

(6)実際の場面④休職と退職を繰り返す時

4つ目としては「退職・転職を繰り返す時」です。

特定の環境へのストレスへの対策には環境調整が大事ですが、何回も退職・転職を繰り返してうまくいかない場合は、少し別の切り口が必要かもしれません。

その例としては、まずは「業種や働き方の検討」、次に「考え方の振り返りと調整」、3つ目は「背景の発達障害の可能性の検討」になります。

①業種や働き方の検討

同じ業種でうまくいかないことを繰り返す場合、業種自体を変える野も選択肢です。

またフリーランスの選択肢や会社の規模など、働き方の検討も大事になると思われます。

②考え方のくせの振り返りと調整

例えばストレスが溜まりやすいとか、自分を追い詰めてしまう考えのくせがあるなど。

そういう内的な部分でちょっとストレスたまりやすい状況があった場合は、そこを見直し調整することが大事になります。

③背景の発達障害の可能性の検討

適応障害を繰り返す場合、時として背景にADHD・自閉症スペクトラム(ASD)といった発達障害がある場合があります。

これは子供の頃を振り返って、そういう不注意などのADHDの特性や、子供の頃からどうも対人関係が苦手なASDの傾向などがあった時には、その可能性を少し検討していただければと思います。

(7)まとめ

今回は「適応障害と休職・退職・転職」ということについてやってきました。

適応障害の場合のストレス対策は大事ですが、その中の重要なものとして「環境調整」があります。その中で、具体的には休職・退職・転職の3つがあります。

これらはどれも一長一短あります。色々な場面で実際、休職・退職・転職の行動を取っていくかについては、状況・症状等やご自身の要望を総合し、それぞれの場面で検討していくことが望まれます。

著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)