とらわれない(森田療法・ACT療法)
不安はとらわれず受け入れる
不安にとらわれ考えすぎると、かえって不安障害などが慢性化・悪化するため注意が必要です。
対策の1つに「森田療法」があります。「あるがまま」を指向し、不安などを受け入れる方法です。
もう一つの方法が「ACT療法」です。時代は違いますが、森田療法と似た部分が多い方法です。
もくじ
(1)はじめに:とらわれない(ACT療法・森田療法)
生活に生かす精神医学。今回は「とらわれない」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
心療内科・精神科の外来では、よくストレスの話題が出てくることが多くあります。
そして、ストレスで「うつ」や「不安障害」などが悪化したり、その背景にあるということも多くあります。
このストレスは大きく言うと2つ。1つ目は実際に大きなストレスの問題があるという場合。
これに関してはもう問題を解決したり、解決が難しければ受け入れたりすることは必要になってます。
もう一つあるのが「考え過ぎてストレスなどが増えてしまっている時」。
この時の対策はむしろ「考え過ぎないこと」、そしてその前提として「とらわれない」ということが大事になってきます。
今回はこの「とらわれない」について見ていきます。
(2)「とらわれる」事の影響
<「とらわれる」影響の流れ>
まず、とらわれることの影響ですが、流れとしては、「何かにとらわれてしまう」。
すると、そのことを「考え過ぎてしまう」。
いわゆるぐるぐる思考になってしまい、「ストレスだったり、不安などが増えてしまう」こういったことになります。
<不安障害・うつ病での例>
例えば、不安障害の方ですと何か不安なことがある。それにとらわれて考えすぎることで、さらに不安が大きくなり影響も強くなります。
うつ病の方だとストレスで嫌なことがあった時に、それにとらわれて考え過ぎてしまう。
それでストレスがどんどん増えてしまう。それによってうつの症状も悪化してしまうということがあります。
<とらわれの影響>
このとらわれ・考え過ぎの影響というところです。
元の不安を考えすぎたり、とらわれたりして増幅してしまいます。
落ち込みの原因になるストレスもとらわれて考えすぎることで増幅してしまいます。
そのためにうつや不安障害の悪化につながってしまうところがあります。
(3)「とらわれ」の対策
続いて「とらわれの対策」ということです。
一番大事なことは「とらわれない」。そして「考え過ぎない」ということです。
ではどうすればいいですかという質問があります。
答えとしては、一歩引いて俯瞰してみる。いわゆるメタ認知的な話をすることもありますけど、もっとシンプルに言えばもう「何か別のことをする」そちらに集中することです。
(4)背景の理論2つ
この背景の理論というところで心理療法でいうと2つ大きなものが言われます。
1つ目は「森田療法」もう一つが最近のいわゆる「ACT療法」になります。
①森田療法
<森田療法とは>
これは精神科医森田正馬(まさたけ)医師が20世紀前半に開発した心理療法です。
この時でいう「神経症」(いわゆる「不安障害」が主です)への治療になります。
考えなどに「とらわれない」ことが治療の柱になってきます。
<(森田医師の)背景の経験>
森田医師自身が「心臓が悪い」などの体の症状にとらわれていることがあって、それで心身の不調が続いていたということがあります。
これに関してうまくいかないことが続いて、なかば開き直って試験勉強にすごく集中したところ、この症状もすごく良くなったということが背景にあります。
なので「とらわれる」ことをなくし、何か別のことをするのがいいということになります。
<2つのとらわれ>
ここである2つの「とらわれている」ところを見ていきます。
まずは症状へのとらわれ、これは「精神交互作用」という言い方もしたりします。
もう一つが「考え」へのとらわれ、「思想の矛盾」という言い方もしたりします。
<精神交互作用>
これは症状につい集中してしまう。
するとこの症状に関しての些細なものも「これ症状じゃないか」と思って拾ってしまう。
そうするとさらに症状が悪化し、またさらに症状に集中してしまう。
こういう悪循環になってしまうというところになります。
<思想の矛盾>
これはある種の「べき思考」とほぼ同じです。
「何かこうあるべき」だと、例えば「人のいる場面では緊張していけない」と考えます。
そうすると「緊張しちゃいけない」というように気負ってしまいます。
そうすると、逆に不自然になってしまって逆効果に、「緊張しないように気負ってしまうともっと緊張してしまう」となります。
するとまた「でなきゃいけない」と悪循環になってしまいます。
<森田療法の大まかな方向性>
まずは症状よりも何かするべきこと、「自分が行動すべきことに集中する」ということが土台にあります。
そして、この不安に対しては、なくそうとするのではなくて共存する・受け入れるというところになります。
そして、今何をすべきかやっていくべきかを明確にして、それをもう(あまり考えずに)日々やっていくというところになります。
②ACT療法
<ACT療法とは>
これは心理学者ヘイズらが21世紀初めに開発した行動療法になります。
考えや行動の調整するということでは、認知行動療法と似た部分の土台はあります。
ただし、より「考え」よりも「行動」や「受け入れる」点に焦点を置いたものになります。
<背景:もがくとはまる>
実際の問題が解決できることであれば、これは「解決のために日々取り組んでいきましょう」ということになります。
一方で、「不安」であったり、解決することが難しいことに関しては、無理して解決しようとすると逆効果になってしまいます。
なので解決するのが難しいもの、「不安」などは、むしろ受け入れることが大事だというところがあります。
<ACT療法の背景の2つの用語>
「アクセプタンス」受け入れるということと、「コミットメント」日々やっていくということがあります。
これは「アクセプタンス(受け入れ)」に関しては、不安などに関してはもう無理をしないで受け入れていくというところ。
「コミットメント」に関しては自分のやっていく方向性を明確にして、日々すべきことをするということになります。
<ACT療法の方向性>
不安などに関しては無理して解決を図らず共存・受け入れをしていく。
そしてやっていく方向性を明確にした上で、日々あまり考えにとらわれず「すべきこと」をやっていくということになります。
<ACTと森田療法は共通点が多い>
時代背景だったり、細かい技法は色々違いはありますが、根本の方向性には非常に近いところがあります。
双方の方向性の共通点を見ていきますと結果は繰り返しになりますが、不安などに関してはもう「なくそう」としないで「受け入れて」共存していく。
そして方向性を明確にした上で、日々考えごとなどにとらわれずにやるべきことを集中して、今に集中してやっていくということになります。
(5)実際の取り入れ方
<取り入れの選択肢>
これらのACT療法だったり、森田療法だったりのエッセンスをどうやっていくかの選択肢ですけれども、まずは専門治療というのはあるかもしれない。
あとは「一般の外来」と、もう一つがいわゆる「セルフケア」でということになります。
①専門治療
以前この森田療法、「入院森田療法」といって、もう一定期間は何もしないで、その後徐々に動くみたいなことをやっていましたが、今はあまりもうやっていないです。
外来でも、一部の大学病院などの専門医療機関でやっているところはあるんですけども、かなり限られてしまいます。
なので、現実的に時間をかけて治療をやりましょうというのは難しい部分が多いかもしれません。
②一般の外来等
一方で、一般の外来等でもエッセンスを取り入れることはできるんじゃないかというのがあります。
外来で不安があったり「うつ」があったりする、そこの背景にある何か「とらわれ」というのがないか、これを見つけていきます。
そこを何とかしましょうということで、患者さんとしては日々そこに「とらわれず」、日々何かを「やっていく」というところを実践していきます。
そして、外来の中でそれがどうですかということを振り返っていって、もしちょっと方向にずれがあれば修正をしていくということがやり方としてあるかと思います。
③セルフケア
先程は外来で「とらわれ」を見つけましたが、これはセルフケアですと自分で振り返って、自分の「とらわれ」を見つけると。
その上でどうとらわれずに行動していくかということを日々実践していく。
で、結果はどうかを適宜自分で振り返って、ちょっと方向にズレがあったら修正をしていくということになります。
(6)まとめ
今回は、生活に生かす精神医学「とらわれない」ということについて見てきました。
ストレスや不安は、「とらわれて」考え過ぎることによって増加してしまって不調に繋がるため、「とらわれない」ということは非常に大事になってきます。
背景の理論としては、森田療法とACT療法というのがあります。
(開発の)時期などは違うんですけれども、やることや方向性ということは非常に近いものがあります。
外来やセルフケアにも取り入れることはできるところがあります。
自分の「とらわれ」を見つけてとらわれずに日々やるべきことを行動していく。
これを日々実践していくということが結果として「とらわれない」ということに繋がっていきます。
ご注意
当院では、長時間のカウンセリングでの認知行動療法は行っておらず、外来診察の枠組みの中で、必要に応じて「認知再構成」「系統的脱感作法」等の要素を活用する事があります。
記事内容に関しては「医学知識」としてご参考にしていただけますと幸いです。
著者:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)